飛行機の姿勢と地上試験の話

JAXAメールマガジン第254号(2015年10月20日発行)
上野真

次世代航空イノベーションハブ 基盤応用技術研究チームの上野 真です。小さい頃から姿勢が悪いと言われ続け、今も若干の罪悪感を抱えつつ猫背です。はい、今日は姿勢の話です。とはいえ健康の話ではなくて、飛行機の姿勢の話をします。

大辞林(三省堂)によると、姿勢とは(1)体の構え。(2)物事に対する構え。態度。とあります。ここでは(1)について述べます。飛行機の「姿勢」というのは、地面に対して飛行機がどれだけ傾いて飛んでいるか、ということを表す言葉です。なんで、そんな言葉が飛行機の話に出てくるのでしょうか? 実は、飛行機の姿勢は飛行機に働く空気の力と大きく関係があります。

話を簡単にするために水平飛行の場合だけを考えます。このとき、飛行機はどんな姿勢で飛んでいるのでしょうか? お客さんが歩けないと困るから胴体が水平になっているでしょうか? 実は大体、機首がちょっとだけ上を向いています。飛行機を空気中に浮かべる力のことを「揚力」といいますが、この力は飛行機がどれだけ気流に対して上を向いているかによって変わってきます。正確には、翼がどれだけ上を向いているか、なんですが、上を向けば向くほど揚力が大きくなります。この角度を迎角(げいかく)とか迎え角(むかえかく)と呼びます。(空気抵抗が揚力以上の勢いで大きくなってしまうので、飛び続けようと思えばエンジンをよりたくさん吹かさないといけないのですが、それはここでは考えないことにします。)

中学生以上になると「力の釣り合い」ということを習うかと思いますが、飛行機を浮かせる力である「揚力」は何と釣り合っているのでしょうね? 答えはみなさんご存知の「重力」です。水平飛行のとき、飛行機には飛行機の重さ分(お客さんや燃料の重量を含みます)の重力が働いていますので、飛行機が飛び続けようとすれば、重力と同じだけの揚力が重力と反対方向、すなわち上向きに働いていなければなりません。先ほど、飛行機が上を向いている角度(迎角)が大きければ大きいほど大きな揚力が働くといいました。ということは、ある重量の飛行機がある速度、ある高度で水平飛行をしているとき、飛行機の迎角は一つに決まってしまいます。なんと、飛行機は好きな姿勢で飛ぶことはできないのです。な、なんだってええええ?????(すいません、大袈裟でした…)

飛行機は燃料やお客さんの量が毎回変わりますね。ということは飛んでいるときの重量も毎回違うということになります。重量が違うと迎角が違うということは先ほども述べました。なので、色んな迎角での飛行機の特性を研究者としては知りたいということになります。しかし、しかしですよ、これを飛行試験で知ろうとすると大変なことになります。なぜなら、飛んでいるときに、そう簡単には飛行機の重量を変えられないからです。燃料をたくさん入れて重い状態で飛び上がって燃料が減るのを待ちましょうか? なんだか燃料も時間ももったいないですね。燃料を変えて何回も飛びましょうか? 上がったり下りたりだけでも燃料を消費するし、そもそも何回も飛ぶなんて大変ですね。

そうすると、やっぱり地上で試験をした方が簡単だなあ、ということになってきます。例えば風洞。模型を作って気流の中に入れて試験をするので、姿勢を変えるのは簡単です。例えば数値シミュレーション。迎角はただの入力なので姿勢を変えるのは簡単です。うむ、やっぱり地上で試験をするのが楽ですねえ。風洞とかスーパーコンピューターとか、巨大な設備、あんなものが本当に必要なのかなあ? 飛ばしてみればいいじゃん! と思うときもあるかも知れませんが、飛行試験でデータを取るのに比べたら、本当に本当に楽なのです。もちろん、飛んでみないと分からないこともあるので、私たち空気力学の研究者も時々飛行試験を行いますが、いかに効率良くデータを取得するかを考えるのにとっても時間をかけています。