航空機の燃費と自動車の燃費

JAXAメールマガジン第278号(2016年11月7日発行)
柳 良二

最近、自動車の燃費が洛陽の紙価を高めているようだが、自動車業界における燃費競争は熾烈を極めているようである。自動車の燃費はハイブリッド車(HV車)が出現してから非常に良くなっており、最近では1L(リットル)辺りの走行距離が37kmを超える車が出現している。1997年に世界で最初に発売されたHV車の燃費は28km/L位であったから、燃費の改善は著しいものがある。今年暮れに発売予定のPHV車はHVモード燃費で40km/Lとの噂もある。すなわち19年間で1.4倍に燃費が良くなっているのである。

乗用車に比して航空機の燃費はどうなっているのであろうか。なかなか推測するのは難しいが、最大搭載燃料と最大航続距離から燃費を計算してみよう。最新のB787-9で最大搭載燃料が約127,000Lで最大航続距離が15,750kmである。その前のB777-300ERは、181,278Lで航続距離13,600km、世界初の超大型旅客機であったB747-300では204,360Lで11,720kmであった。最大搭載燃料を最大航続距離で割って、おおよその燃費を計算すると、B747は0.057km/Lしかない。B777では0.075km/L、B787では0.12km/Lまで改善された。B747の初飛行は1969年、B777の初飛行は1994年、B787の初飛行は2009年である。40年間で燃費は2.1倍になった計算である。

このように見ると、航空機の燃費の改善率が、乗用車と比べて特に劣っているわけではないが、燃費の絶対値で比べるといかにも燃費が悪い。実際0.12と37.2では310倍の開きがある。しかし、B787は一度に300人の乗客を運べるのに対して、HV乗用車の定員はわずかに5人である。そのまま比べるのは公平ではない。そこで、エアラインで使われる旅客キロと言う単位を使ってみよう。この単位は乗客1人を1km輸送した時を1人・キロとして輸送量をあらわす単位である。よってB787は、300人×15,750kmであるから、旅客キロであらわすと、470万人・キロとなり、燃料1L当たりの旅客キロは、37人キロ/Lとなる。同じくHV乗用車では、燃料タンク容量は43L、定員は5人であるから、最大走行距離は1,600kmと計算され、旅客キロでは186人キロ/Lとなる。まだ、航空機の燃費は分が悪い。そこでもう少し工夫をしてみよう。

航空機は無給油で15,750kmを飛行できるが、HV乗用車は1,600kmしか走行できない。もし仮に、太平洋上に高速道路を架けてもHV車で15,750kmを走破するには途中での給油が必要である。しかし太平洋上には給油所はない。15,750kmを走り切るには423Lの燃料が必要である。乗用車にこのような量の燃料は積めないであろうから必要な燃料をタンクに積んで牽引していくか、別のタンクローリーで運んでもらう必要がある。ここでは、タンクローリーで運んでもらうことにしよう。2t(トン)トラックの燃費はおおむね11km/Lである。当然このトラックはHV乗用車に伴走するわけだからこのトラックも15,750kmを走行する燃料が必要である。その量は1,432Lと計算され、HV乗用車の分を含めると全部で1,855Lとなる。ガソリンの比重は約0.75であるから、総燃料重量は1.4tとなる。2tトラックでは少し大きすぎるがタンクの重さも加えれば2tトラックは必要であろう。
このように考えると5人乗りのHV車で15,750kmを走行するときの燃費は42人キロ/Lとなり、まあB787の38人キロ/Lでもほぼ互角の燃費となったようである。なお、実際に太平洋上に給油所を設けて給油しながらHV車が走った場合でも、その給油所まではタンクローリーで燃料を運んで置くわけだから、そのタンクローリーの燃費も考えれば上記の燃費の比較もあながち的外れとは言えまい。
HV車は、減速時のブレーキとしてモーターを発電機として使用して運動エネルギーを電気エネルギーに変えて充電池に貯める回生ブレーキを使用して燃費を改善している。航空機でも、JAXAではモーターグライダーのエンジンを特別に開発したモーターに替えて、充電池の電力で離陸、飛行し、滑空降下時にはプロペラのウインドミル(風車)作動を利用してモーターを発電機として使って充電池にエネルギーを回生することに成功している。また、長距離旅客機では、燃料電池を用いたハイブリッド航空機の研究も進められている。
先に記した世界初のHV車を発売したのは、トヨタ自動車であるが、その元を作った豊田自動織機の発明者豊田佐吉は、既に航空機にも使える電池の仕様を書き残している。その仕様は現在のリチウムイオン電池の性能を大幅に超える物であるが、その電池は佐吉電池と呼ばれ今でもトヨタ自動車で研究中であると聞いている。世界で初めて自動織機を開発したのが豊田自動織機であり、世界初のHV車を発売したのがトヨタ自動車であることを考えると、世界初のHV航空機も我が国で開発出来るかもしれないと期待している。