クリスマスの思い出(前編)

JAXAメールマガジン 第292号(2017年6月20日発行)
廣谷智成

こんにちは、空力技術研究ユニットの廣谷 智成です。

今回は少しだけ昔の思い出話を。題名からサンタクロースが出てくるのかなと思った方もいらっしゃると思いますが、はずれです。飛行試験に参加したときの話です。

JAXAは前身の機関の時代から、さまざまなプロジェクトを行っており、その中には実験機の飛行試験を行うものもあります。実験機の飛行試験はどのような場所で行うかというと、ちょっと変わったところで行うことがあります。砂漠や南海の孤島、北極圏などです。実験機の飛行試験は、万が一にも危険な状態にならないように十分な準備をしますが、それでも物的、人的被害の可能性を極力なくすために、広い範囲で人が住んでいない場所を選んで、飛行試験を行います。

私はJAXAの前身の一つである航空宇宙技術研究所で働きだしてから間もない頃、高速飛行実証(HSFD)プロジェクトに関わり、フェーズIの飛行試験に、主に支援作業の交代要員として参加しました。(プロジェクトの概要、成果にご興味のある方はリンク先をご覧下さい。)高速飛行実証フェーズIの飛行試験はキリバス共和国のクリスマス島で行われました。クリスマス島には、人は数千人住んでいるのですが居住地域は島の北西部に集まっており、南東部に定住している人はいなかったので、南東部にあるイーオン飛行場周辺が飛行試験エリアとなりました。クリスマス島がどこにあるかというと、ハワイからまっすぐ南に行った赤道直下です。そう、まさに南海の孤島です。ハワイから週1往復飛行機が飛んでいるので、ハワイ経由でクリスマス島に行きました。実はハリケーンのせいで、数日間ハワイで足止めを食らったので、クリスマス島に着いた時には時差ボケは治っていました。

クリスマス島に到着し、実験隊の本部が置かれているキャプテンクックホテルに行くと、実験隊の制服のポロシャツと飲料水が支給されました。外国で水道水が飲めないことは普通のことですが、クリスマス島は少しレベルが違いました。飲める、飲めないという以前に真水がありませんでした。支給された飲料水はハワイから空輸されているものでした。私はクリスマス島滞在中、大半はキャプテンクックホテルに泊まっていましたが、そこでは蛇口をひねると塩水が出ます。衛生面でも問題があり、もちろん飲めません。シャワーも塩水、洗濯も塩水です。遠洋漁業の漁師さんなら日常かもしれませんが、普通はなかなか経験しませんよね。
私は気象観測も担当していたので、夜、気象観測小屋にこもることがありました。明かりをつけて独りでこもっていると、たくさん虫が寄ってきます。そして刺します。何の虫かは分かりませんが、刺されると水ぶくれになります。その水ぶくれが破れて傷になるのですが、塩水のシャワーがその傷口にしみるんですよ。洗濯物はとても良く乾きました。さすがに日差しが強いので。ただ、塩水で洗濯しているので乾くとうっすら塩が浮いてきます。実験隊員の皆さんが悩むのが、歯を磨くのにどの水を使うかということです。飲料水は定期的に支給されるのですが、もったいない気もするし、かといって衛生的に問題のありそうな塩水を口に入れるのは…。結局、私は蛇口から出る水で歯を磨いていました。幸い、おなかはこわさずに済みました。

食事はホテルで取れるタイミングの時はホテルでということになるのですが、日中は実験施設にいるのでケータリングになりました。どちらもとにかく野菜が少なかったです。申し訳程度にちょっと添えられている感じです。真水のない島ですから島内で作ることはできず、どこからか運ばれてくるのだと思うのですが、日持ちもしないので大変貴重なものだったのでしょう。日本を出発する前に野菜不足になることは聞いていたので、ビタミン剤と食物繊維の錠剤を持って行き、滞在中は毎日飲んでいました。

とりとめのない話を書いていると長くなってしまったので、今回はここまでとさせて頂きたいと思います。次回は実験施設での話などを書ければと思います。

▽ 高速飛行実証(HSFD)

▽ 高速飛行実証フェーズI飛行実験について

▽ 高速飛行実証フェーズI飛行実験結果について