風洞実験の「普通」を「普通」に

2018年6月20日

廣谷 智成

こんにちは、空力技術研究ユニットの廣谷 智成です。

4月22日に調布航空宇宙センターの一般公開がありました。今年は天気も良く、多くの方に来所して頂きました。私は6.5m×5.5m低速風洞の説明、安全管理要員として、風洞の測定部(実験模型などを設置するところ)の中で見学者からの質問に答えたり、時々、私の方から豆知識をお知らせしていたりしていました。風洞設備を初めてご覧になる方も多かったようですが(中には毎年足を運んで下さる方もいらっしゃいますが)、風洞にご関心を持って頂けたようで嬉しく思っています。

風洞は航空宇宙分野に限らず、自動車や鉄道、建築、土木など様々な分野で利用され、空気の流れや流れからの影響を調べることに活用されています。とはいえ、モノ作りの世界を広く見渡すと、風洞を利用した実験や数値的な流体解析が広く普及し、盛んに活用されているかいうと、なかなかそうではありません。風洞を利用した実験や数値的な流体解析を行おうとすると、専門的な技術が必要になりますし、そもそも、風洞実験を行おうとすると風洞設備が必要になります(数値的な流体解析でも、より詳しく調べるためには大型の計算機設備が必要になります)。そのため、流れや流れからの影響を調べることは、技術的に敷居の高いものになってしまっています。

この敷居の高さをできるだけ取り除き、流れや流れからの影響を調べる技術を普及、社会に役立てる取り組みとして、「風と流れのプラットフォーム」事業が行われています。JAXAも実施機関の一つとして参加し、特に風洞設備、風洞実験技術により貢献しています。私自身もこの活動を担当しており、風洞実験を行うための技術的な相談を受けたり、風洞実験を行う時の支援をしたりしています。

航空宇宙分野以外の分野の人々からの、風洞実験を行うための技術的な相談は、「風と流れのプラットフォーム」事業が始まる前からも時々受けていたのですが、相談を受ける中で戸惑ってしまうことも時々あります。これは、私自身に航空宇宙分野での風洞実験の「普通」が染みついているせいなのかもしれません。

航空宇宙分野の風洞実験では、「普通」、調べたい機体や、機体の一部分の模型を作り、それを使って流れや流れからの影響を調べます。模型を作るわけですから、実験に耐えるよう十分な強度のあるものにすることができますし、模型を風洞の中で支える仕組みや、流れから受ける力、圧力などを測るための仕組みを組み込むことができます。一方で、「普通」、風洞実験の環境と、実際に機体が飛行する環境はイコールではありません。模型を使うため大きさが異なりますし、模型を支える仕組みの影響などもあります。これらの環境の差異を埋めるために様々な工夫を施したり、予め注目する現象を抽出できるように実験のセッティングを工夫したりします。

他分野の、特に風洞実験経験の少ない(または無い)方々からの相談では、製品など、実際のモノを流れの中に入れて、キチンと機能するか、性能を発揮するかを風洞実験で確かめたい、といった要望がしばしばあります。風洞実験を行う動機としては、この考え方の方がいわゆる「普通」なのかも知れませんね。しかし、この考え方だけでは風洞実験は成り立ちません。確かめたいことの本質を抽出し、どんな量をどんな方法で計測すれば良いか、風洞の中で対象となるモノをどうやって支えれば良いか、風洞実験の環境と実際の環境の差をどうやって埋めるかなどを一つ一つ決めていき、いわゆる「普通」の考え方から、風洞試験を成立させるための考え方を導き出します。相談される方々のいわゆる「普通」と私たちの「普通」の違いから戸惑うこともありますが、有意義な風洞実験を行えるように活動しています。

風洞実験の敷居の高さをできるだけ取り除き、モノ作りの世界で広く、「普通」に風洞実験が活用される環境作りを目指しています。