JAXAの実験用航空機について (その4)

2019年2月20日
柳原正明

次世代航空イノベーションハブの柳原です。

「JAXAの実験用航空機について」(その3:2018年7月13日)でご紹介したように、2000年に、プロペラ機しかなかったJAXAの実験用航空機にヘリコプタが加わり、JAXAの航空研究開発の幅がぐっと広がりました。しかし、近年の航空輸送はジェット機が主流です。JAXAでもジェット機に関する研究開発を行っていましたが、それを飛行実証する手段がありませんでした。ヘリコプタ、プロペラ機、ジェット機は、それぞれ飛行高度や飛行速度が異なるため、ジェット機の新技術の飛行実証はジェット機を使わなければできないのです。これはヘリコプタとプロペラ機でも同じです。このため、米国のNASAやドイツのDLRなど、欧米の航空技術研究機関では、いずれも実験用航空機としてこれらの3種類の機体を運用しています。

このような中、2008年には初の国産ジェット旅客機であるMRJの開発が決定し、日本でもジェット機に関係する新技術の飛行実証に対する必要性が高まってきました。そこで、2009年に、JAXAの実験用航空機として初のジェット機を導入することが決まり、その後、3年をかけて機体開発を行いました。機体は、米国セスナ社製の“ソブリン”という双発ビジネスジェット機をベースとし、ノーズブーム(機首に取り付けられた棒のようなもの、速度などを正確に計測するための重要な装置)、センサやアンテナ、実験用電源、機内通話装置、データを収集・記録・表示する計測システムの装備や、機体下面に観測用の窓を付けるなど、実験用航空機に必要な改造を施しています(飛翔パンフレット)。運用開始前には全国から愛称を募集し、多数の応募の中から「飛翔」と言う名前に決まりました。2012年に機体は完成し、運用を開始しましたが、現在、「飛翔」はJAXAの実験用航空機の主力として、FQUROHプロジェクトでの騒音低減デバイスの実証などで、大活躍してくれています。 ところで、「飛翔」の垂直尾翼には3本の矢が描かれています。これは、ヘリコプタ、プロペラ機、ジェット機の3種類がようやく揃い、欧米の航空研究機関と肩を並べて一人前となった実験用航空機が、毛利元就の3本の矢のように、3機一体となって大きな成果を生むことを期待し、描いたものです。でも、これで実験用航空機の整備が完了したとは思っていません。欧米の航空研究機関では、実験用航空機として「3種類」の機体を運用していると書きましたが、「3機」ではありません。NASAでもDLRでも、3機種の中で、さらに細かく用途を分けて、それぞれ複数の機体を使っています。まだまだ欧米の航空先進国は先を走っています。実験用航空機のお話は今回の(その4)で終わりますが、今後も飛行実験環境の整備が進み、飛行実験が欧米並みに行われる様になることを願って止みません。

【追記】 「航空機(Aircraft)」と「飛行機(Airplane)」の違いをご存知でしょうか。その答えは、「飛行機」とは、プロペラ機やジェット機のように、固定式の翼とエンジンを持った機体のこと指す一方、「航空機」は、飛行機だけでなく、ヘリコプタや飛行船など全てを含みます。つまり、プロペラ機やジェット機は「航空機」であり、かつ「飛行機」でもありますが、ヘリコプタは「航空機」ですが、「飛行機」ではありません。旧NALの時代から飛行実験のために運用していたプロペラ機を「実験用航空機」と呼んでいました。これは間違いではありませんが、実態は「実験用飛行機」あるいは「実験用プロペラ機」とでも呼ぶべきものでした。ヘリコプタの「MuPAL-ε」、ジェット機の「飛翔」の導入により、ようやく胸を張って「実験用航空機」と言えるようになりました。