ドローン宅配

2020年1月20日
大瀬戸篤司

〇初めに

こんにちは。ドローンの研究をしている大瀬戸です。最近は産業用のドローンを使った商売がじわじわ増えてきました。特に空撮に関してはドローンがかなり浸透しており、ドローンを使って撮影した雄大な自然風景がテレビで放映されることが多くなっています。しかし、まだ窓から外を見たら今日もドローンが飛んでいる、というほど社会に溶け込んではいません。ドローンの産業利用の大本命は宅配だといわれており、いろいろな企業や機関が研究開発を行っています。ですが、ドローンの宅配といってもイマイチイメージがわかない人も多いと思います。そこで、そもそもドローンがどれくらいの頻度で、どうやって、どれくらいの重さの荷物を運ぶのか、何が課題なのかということを説明したいと思います。

〇何に使うの?

一言で宅配といっても、そのプロセスは細かく分かれており、ある家から別の家に荷物を運ぶまではいろいろな事業所を経由して、多くの人の力で成り立っています。今ドローンを使おうとしているのは、この流れの中のラストワンマイルの部分です。英語で言うとかっこいいですが、要は宅配の最終拠点から我々の家までの宅配のことを指します。普段、街中で業者の方が頑張っている部分です。ドローンなら地上の交通状態によらず、宅配拠点と個宅を直線で繋げるので、かなり時間の短縮になると考えられています。そこだけ?宅配拠点同士の輸送には使わないの?と思われるかもしれませんが、そこは大型のトレーラーを使って輸送されています。ドローンはそういったトレーラーに比べればはるかに小さく、少ない荷物しか運べないので、現時点ではドローンで置き換えるのはかなり難しいと思われます。もちろん将来的には拠点の配置を含めて、ドローン宅配に適した物流システムに変わるかもしれませんが、ここでは既存の物流を置き換えるという方向で考えたいと思います。

〇どれくらい荷物を運ぶの?

日本では一年間に40億個の荷物が宅配されています。人口100万人規模の政令指定都市だと、季節ごとの変動はありますが、年間約1500万個、一日約33000個の荷物が宅配されています。これらすべての荷物をドローンが運ぶのではなく、このうちの大半を占める比較的軽い荷物(2.2kg以下程度)がドローン宅配対象になると考えられています。おおよそ1日で20000個程度だと予想されていますが、それでも結構多いですね。

〇どれくらいドローンが必要なのか?

1日20000個の荷物がありますが、宅配は一日の間に分散して行われますので、ドローンが20000機必要なわけではありません。では何機ドローンが必要なのでしょうか?これは宅配拠点の数やドローン1機が1個の荷物をどうやって運ぶのかということに依存してきます。図1のように、一つの都市にドローンの拠点が分散している場合を考えてみます。この例だと、一つの宅配拠点は半径1km程度の円の宅配を担当しています。このとき一個の荷物を運ぶのに大体10分位だと考えられます(内訳は表に示しました)。意外と飛んでる時間というのは長くないです。片道フライト0.8~1.2kmだとすると、ドローンが15m/sくらいで飛べば、片道53~80秒くらいで済むんですね。離着陸とか、荷物の積み下ろしの方に時間が掛かると考えられています。こういったプロセスで考えると、大体200~300機くらいあれば1日分の荷物が全て運びきれると考えられます。これは一つの宅配拠点に5機くらいドローンが居れば良いことになるので、意外と何とかなりそうです。実際は一時間あたりに運ばないといけない荷物の量は均等ではないので、例えば夜間に集中するともっと多くのドローンが必要になるかもしれません。

図1.ある政令指定都市におけるドローン宅配拠点の分布例

表1.ドローン宅配の各飛行プロセスに必要な時間
飛行プロセス 時間 [min]
荷積込 2
運航許可申請

1

離陸・上昇 0.8 (高度120m,上昇速度2.5m/sと仮定)
巡航(往路) 1.1 (直線距離1000m,飛行速度15m/sと仮定)
降下/着陸 0.8 (高度120m,降下速度2.5m/sと仮定)
荷下し

2

離陸・上昇 0.8 (高度120m,上昇速度2.5m/sと仮定)
巡航(復路) 1.1 (直線距離624m,飛行速度15m/sと仮定)
降下・着陸 0.8 (高度120m,降下速度2.5m/sと仮定)
バッテリ交換・整備 10

〇何が問題なのか?

法律の問題もありますが、今回は技術的な話をしたいと思います。一番懸念されているのは、人の目が届かないところ(目視外)での飛行です。これは車でも同じですが、突然のトラブル(人が飛び出して来た!タイヤが滑った!)には、瞬間的な対応が必要となります。ドローンでは多くの場合において、自動制御システムがこれらトラブルに対応しますが、自動制御システムが対応できないようなトラブルには操縦者が対応しなければなりません。突発的なトラブルでも操縦者がドローンを見ていれば、何とかなることもありますが、計器やカメラの映像だけ見ていると、通信遅延のために対応が間に合わないことが予想されます。人間はやっぱり自分で見ていないと、とっさに判断できないんですね。それを補うために、運航管理システムや機体に搭載するDAA(Detect and Avoid)機能が研究開発されています。
運航管理システムというのは、ドローンのための管制システムのようなもので、それぞれのドローンから送られてきた情報を皆で共有することで、ドローン同士が衝突する可能性があるか、地面や建物に近づきすぎていないかを判断して、警報や回避指示を発令することで飛行を支援するシステムです。安全を守るために有効なシステムですが、ドローンから送られた情報やシステムが持っている地形情報に基づいて判断するので、通信が途絶したり、情報がそもそも間違っていると役に立たなかったりという問題があります。
それを補う機能がドローンに搭載するDAA機能です。これはドローンにカメラなどのセンサーを搭載して、他の機体や建造物を検出してドローンだけで回避させようとする機能です。最近はDAA機能が搭載された市販のドローンも増えてきました。しかし光の反射具合や、色々な要素に左右されて精度が下がるという問題があります。鳥ですらガラスを認識できずビルに衝突することがあるので、ドローンがDAA機能を持っていれば100%というわけではありません。
というわけで、現在は運航管理システムとDAA機能を組み合わせることで、安全性を高めようと世界で研究が進められています。
さらに墜落が避けられない状態になったときに、安全に?落下するための技術開発も進められています。例えばパラシュートなどがその一つです。ただパラシュートを積むのではなく、ドローンのシステムとパラシュートのシステムを分離させることで、ドローンがエラーを起こしてコンピュータが停止しても、パラシュートがちゃんと開くようなシステムが開発されています。他には、地上の人口密度を統計的に判断して、人が少ないような場所の上空を優先的に飛行する方法も考えられています。

今回は、ドローンの宅配について、どんな感じで飛行するか、どんなことが課題がについて説明させていただきました。日常的にドローンによって宅配がされるには、まだ時間が掛かりそうですが、そんなに遠い未来ではないかと思っています。

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