JAXAのスパコン-その進化とこれから

(前列)
数値解析グループ グループ長
情報・計算工学センター 併任
松尾裕一(まつおゆういち)
(後列左より)
数値解析グループ 藤田直行(ふじたなおゆき)
情報・計算工学センター 染谷和広(そめやかずひろ)
情報・計算工学センター 末松和代(すえまつかずよ)

松尾さん、藤田さん、末松さんは、JAXAの前身機関の一つである航空宇宙技術研究所(NAL)時代からスパコンを使った研究開発に携わっています。いわば、スパコンのエキスパート。染谷さんは2年前から情報・計算工学センターに配属になりました。

それぞれのスパコンには特化した分野があった

松尾: JAXAのスパコンには、それぞれ得意分野がありました。角田はロケット(宇宙推進)、相模原は宇宙科学、調布は航空。その3事業所で所有するスパコンの中でも、調布の規模が圧倒的に大きく、これまでのJAXAのスパコンの解析対象の大部分は航空分野に限られていました。しかし、One-JAXAということを考えると、それを一つにまとめ、もっと宇宙分野の解析も行っていかなければならない、と感じていました。そこで、今回『空と宙』で紹介しているように、スパコンの集約という動きが出てきたんです。

スパコンは日々進化を続けている

末松: ここ何年かで、スパコンを取り巻く環境は大きく変わってきていると感じます。私がNALに入った頃には、プログラム(コンピュータに「これをしなさい」と指示を出すもの)のコマンド(命令)を1枚1枚紙のカードに書き込み、それをコンピュータに読み込ませていました。しかも、同時にいくつもプログラムを実行することができなくて。今は、いくつものプログラムをいっぺんに実行することができます。しかも、コンピュータの前に座り、直接操作しなくても、ネットワークを介して遠くから解析を行うこともできるようになりました。スパコンの進化を肌で感じます。 私は、特に「可視化」の研究に長年携わってきました。昔は、可視化を行うにはそれなりのコンピュータが必要で、スパコンを使わないと難しかったのですが、今は同様の可視化の解析が個人用パソコンでも行えます。とにかく、コンピュータに対する様々な作業が速くなりました。 例えば、昔は断面などの一部分しか可視化できなかったのに、今はアニメーション(動画)にして見ることができるようになったり。

藤田: 昔は、ストレージ(記憶装置)の値段が高かったので、計算結果をコンピュータ内に蓄えるのではなく、計算をし直すという考え方が主流でした。プログラム自体は容量をそれほど食わないため、それはとっておけます。ただ、計算結果は重たくてコンピュータに蓄えておくのは難しかったのです。しかし、最近はひとつの計算に掛かる時間が長くなってきました。しかも、ストレージの容量も増えたので、計算結果を保存できるようになったんです。つまり、「プログラム保存→ 解析結果保存」とコンピュータの使い方が変わってきたんです。

末松: それって、進化の仕方。もし記憶媒体が安くならなければ、今でも計算し直していたかもしれない。

藤田: 昔は、計算するのが速い計算機の開発が主流でした。そのため、CPU(メモリに記憶されたプログラムを実行する装置)はドンドン高速化していったのですが、ディスクに書き込む速度は相変わらず遅いままでした。すると、計算する方(CPU)を使った方が得。でも、CPUの高速化にも限度があり、鈍化してきてしまいました。そうすると、安くて速い記憶媒体があれば・・・と進化の方向が変わってきたんです。複雑な計算だと、1、2ヶ月かかる場合もある。その結果を呼び出したい場合、計算をし直すよりは記憶しておいた方が良い。結果が直ぐに呼び出せる、という使い方の方が、今の時代には合っているんですね。

末松: 一般的なパソコンなども同じです。数年前までは、記憶媒体と言えばフロッピーを使っていました。それが、MOになり、今はUSB。今なら何ギガとか入るけれど、値段は昔に比べてかなり安くなっています。昔は、パソコンのアプリケーションのマニュアルなどは紙だったけれど、今はそれもデータ化されています。これらは全て、「記憶媒体の進化(大容量化)」の恩恵です。

藤田: 記憶媒体の進化の例として・・・乱流の計算は非常に時間がかかる。そういう複雑大規模な計算を行えるシステムは世界的にみてもそれほど多くはありません。 JAXAの様な機関で緻密な計算をし、それをデータベース化(記憶媒体への記録)し、その結果を呼び出して論文を作成するとか、そういうことが行われるようになってきています。そういう重要かつ大規模な解析結果を保存しておくのは、大規模計算機を持つ組織の役目です。特に、JAXAは宇宙航空に関するそのような計算結果を保存しておく義務があると思います。

情報・計算工学センターの役割――JAXAのスパコンをどう使うか

* 情報・計算工学センター

JAXAは各事業を進める8の本部およびグループから成り立っています。情報・計算工学センターはそれらの本部およびグループから独立し、JAXAの情報化に関わる事業を引き受けています。
URL:http://stage.tksc.jaxa.jp/jxithp/

染谷: JAXAのスパコンは宇宙航空の・・・と言ってはいますが、まだ航空分野の割合が多いと思います。なぜなら、宇宙研究開発の中心となっている筑波地区の人たちが、JAXAのスパコンの存在を十分に認識していないからです。JAXA内に、宇宙分野での潜在利用者がまだまだいると思っています。ロケットに関する数値計算は、情報・計算工学センターが発足してから行われるようになり、これまでに様々な成果を得ています。私たちの役割は、JAXA内で眠っているスパコン利用のニーズを吸い上げ、より活用していくことにあると思っています。

末松: これまでに、射場のシミュレーションなどを行い、地形の作り方で騒音の広がりなどが変わってくることを確認しています。スパコンを使うことで、今まで行ってきた基礎研究的なデータ収集はもちろん、即実践に繋がる結果も得ることができるのです。