空気予冷器

空気予冷器は、コアエンジンに取り込む空気を冷却する熱交換器です。冷媒には燃料の液体水素を利用します。空気を冷却する第一の理由はコアエンジンを熱から守るためです。空気予冷器の上流にあるインテークでは超音速の流れを減速して圧縮しますが、この時温度も上昇します。マッハ5で飛行すると、この温度は1,000℃にもなります。予冷器を用いることで、この高温空気を、コアエンジンが耐えられる約300℃に冷却することができます。また、冷却によって空気の密度が大きくなるので、エンジンの推力が増大するという利点もあります。

空気予冷器は、幅広い温度/圧力範囲で使用されます。また、必要な冷却性能に加えて、軽量・コンパクトであること、空気及び冷媒の圧力損失が小さいことが求められます。熱交換器にはさまざまな形式がありますが、これらの要求からシェル・アンド・チューブ型熱交換器が適しています。空気流路(シェル)の中に、冷媒を流す伝熱管(チューブ)を多数配置した形状です。そして、この伝熱管が細いほど高性能な、すなわち軽量・コンパクトで圧力損失の小さな熱交換器が実現できます。従って、細い伝熱管群に対する設計・製造技術が、空気予冷器の研究開発における重要な課題となります。

小型実証エンジンの空気予冷器(図1、表1)では、伝熱管に直径2mm、肉厚0.15mmのステンレス管を用いました。長さ64cmの伝熱管648本に対して高精度なU字曲げ加工を施し、端部をマニホールドにロウ付けします。ロウ付けに際しては、熱変形を防止する構造を考案し、真空高温炉を用いた一括工程により製造しました。

図1:空気予冷器

表1:空気予冷器の設計点性能
流量 温度 圧力
空気 1.129kg/s 空気入口 15℃ 0.0992MPa
空気出口 -101℃ 0.0883MPa
水素 0.059kg/s 水素入口 -253℃ 2.3043MPa
水素出口 -108℃ 1.7909MPa

この空気予冷器の性能評価試験では、熱交換量及び空気/冷媒の圧力損失に関しては目標性能が得られましたが、予冷器出口での空気温度に分布が表れました。今後は、この原因とコアエンジンへの影響を調べ、必要に応じてその低減を図る予定です。

空気中の水分による伝熱面への着霜も、空気予冷器にとって重要な課題です。特に極低温の伝熱面に付着・成長する霜層は、その密度が小さいために大きな熱抵抗や流路抵抗となるからです。この着霜に関する研究にも取り組んでいます。極低温冷却面への着霜(相変化を伴う物質移動)現象について、境界層モデルや円柱周りの2次元モデルを構築し、数値解析によって基本的特性の理解を進めてきました。そして、着霜対策として、メタノールなど親水性の低融点物質を空気中に噴霧して着霜の影響を低減する方法(図2)や、間欠的にジェットを噴霧して霜層を吹き飛ばす方法などを開発し、要素モデルによる機能評価を行ってきました。今後は、これらの着霜低減/防止策を小型実証エンジンの予冷器に適用するための検討を進める予定です。

図2:伝熱面への着霜(左)→メタノール噴霧により除去される(右)