しっかりと、確実に

機体構造グループ
高戸谷 健(たかとや たけし)

大学時代はちょっと遊んでしまったという高戸谷さん。サークル活動で知ったマリンスポーツを通して複合材料に触れ、その面白さに気付き、今では構造材料の研究者としてJAXAで働いています。

物作りに憧れる子供でした

幼稚園から小学校ぐらいの頃かな。時計や、プラレールなどのおもちゃを分解しては元に戻せなくなり、よく親に叱られていました。なぜ分解してしまうのかですか? 何ででしょうね。どうして動くのかに興味があったんでしょうね、きっと。
私が中学生の頃、ちょうど科学雑誌『ニュートン』が創刊されました。中高と『ニュートン』を定期購読しており、人体の不思議や宇宙の不思議を扱っている記事が特に好きでよく読んでいました。科学記事を読むことで、漠然と“何かものを作りたい”という思いを膨らませていました。
中高の6年間、バスケットボール部に所属して汗を流していました。中学時代、NECのPC8001というパソコンが発売され、部活仲間の間でパソコンがちょっとしたブームになったんですね。ゲームソフトを買ってきてゲームをやったりもしたのですが、それよりもプログラミングが楽しくて。いかに難しいプログラムが作れるかを皆で競い合っていました。大学入学後のプログラム演習の講義の時には、その時の経験が結構役に立ちましたね。

何がきっかけになるか分からない

子供の頃からの“何かもの(動くもの)を作りたい”という思いを胸に大学に入学したのですが・・・いざ大学生になったら、バイトとサークル活動に明けくれてしまって。私が所属していたサークルは、1年通して様々なスポーツをしていました。特に夏は、マリンスポーツを結構活発にやっていましたね。ディンギーという型のヨットを使ったセイリングを楽しんでいました。
バイトは家庭教師とプログラマーです。プログラマーは親戚の紹介で建築関係のコンサルタント会社で働かせてもらったのですけれど、その会社はアクアラインの建設に一部携わっており、サービスエリアに波が当たったらどうなるかや消波壁(波を防ぐための壁)をどの程度の高さにすれば良いのかといったシミュレーションをやっていました。もちろん、シミュレーションを担当していたのは社員の方々で、私は「ココをこう変えて」と指示を受けた通りにプログラムを直していただけですけれど。
就職のことも考え、大学院への進学を決めました。実は私は船舶海洋工学を専攻しており、修士論文では徹底的に軽さを追求した複合材製ディンギーを作ることにしました。学部時代にサークルでマリンスポーツをやっていたと述べましたが、岩場にぶつけて船体が欠けたり損傷したりすることがよくありました。そんな時には自分たちで材料を購入して直したり、磨いたりしていました。 その船は複合材料でできており、何だか面白い材料だなと感じていたんです。船や車などの構造設計から製造までを手掛けているGHクラフトという会社を先生が紹介してくれ、そこの設備を使って結構本格的に作ったんですよ。論文は1人で書きましたが、製造は1人ではできないため、研究室の先生方や学生を総動員してみんなで作りました。
レーザークラスのディンギーだと、船体の重さが60~70キロ、人とマストなどを併せると大体140~150キロになるんです。それに対して、私が作ったディンギーは船体の重さが約1/3程度、人とマストなどを併せても100キロ。総重量を約2/3程度に抑えられるんですね。それだけ軽いと、風がパンっと入って来た時に、1歩スッと前に出られるようになるんです。製作後は、構造試験をしたり、実際に乗って性能を確かめたりしましたし、色々な場所で展示も行いました。

海から宇宙へ

小型超音速実験機

NEXST-1(小型超音速実験機)

船舶関係のことを学んでいたのに、なぜNAL(JAXAの前身機関の一つ)に入ったのかですか? 学部4年生の時に卒業論文をご指導いただいた教官が元々NALにいらっしゃった方で、NALが開発した短距離離着陸実験機「飛鳥」の飛行試験の話などを聞かせて貰い、“NALは良いところ”という刷りこみがありまして。就職先を探す際にも縁があり、複合材料の研究員として1996年にNALに入所することになりました。 これまでの仕事の中でもっとも印象深かったのは、小型超音速実験機*の試験です。試験用の機体は既に完成し、後は打上試験を行うだけという段階で、打上隊の一員として参加することになりました。ところが、打上場のあるオーストラリアのウーメラへと向かい、臨んだ試験が失敗してしまったんです。大きなショックを受けたことを憶えています。その後、何がいけなかったのかを皆で考え、改修する過程に関われたことは大きな経験となりました。試験機製造メーカーから学んだことも多かったですね。私たちはどちらかというと物を作る前、いわゆる概念設計を得意としています。それに対して普段から物を作っているメーカー側は、実際に物を作るための詳細設計を得意としています。その詳細設計が非常にシステマチックに行われていることがとても印象的で、凄いと感じました。そういった点は今の自分の仕事に活かすようにしています。