NEXST-1(小型超音速実験機)

コンコルドのような超音速旅客機では、空気抵抗が1%増えると乗客が3人乗れなくなると言われるほど、空気抵抗は燃費に大きな影響を持っています。
超音速旅客機実現の大きな課題の1つである経済性、すなわち燃費を改善する機体形状を設計し、飛行実験によりその効果を実証したのが「NEXST-1(小型超音速実験機)」です。
「NEXST-1」の飛行実験は、2002年、2005)年にオーストラリアのウーメラ実験場で行い、コンコルドに比べ約13%空気抵抗を低減できることを実証しました。

CFD逆問題設計法

従来の設計法では、形状を定めて風洞実験やCFD(計算流体力学)によって性能を求め、目標との比較を行い、設計者の経験や勘などにより形状を修正して目標に近づけていきます(順問題設計と呼ぶ)。これに対して、数学的アルゴリズムとCFDとを組み合わせてあらかじめ定めた目標になるように形状を自動的に設計する手法をCFD逆問題設計法と呼びます。
NEXST-1では、この手法を主翼設計に適用し、自然層流翼を実現する圧力分布を設定目標として翼形状を設計しました。

自然層流翼

飛行中の航空機の翼表面付近に生じる流れ(境界層)の乱れが小さい状態(層流)に維持することで翼の摩擦抵抗を小さくします。

クランクドアロー翼

造波抵抗の小さな後退角が大きい縦細翼と、誘導抵抗の小さな横長翼との長所を取り入れた翼平面形状をクランクドアロー翼と言い、NEXST-1で適用しています。

エリアルール

遷音速や超音速の流れの中にある物体の造波抵抗はその断面積の流れ方向分布によって決まるという法則。この法則に基づいて設計した胴体をここではエリアルール胴体と呼んでいます。
主翼などがあるところでは、その分胴体側の断面積を減らすため、胴体がくびれた形状をしています。

※:造波抵抗=衝撃波の発生により生じる抵抗

ワープ

飛行状態において翼に働く抵抗(誘導抵抗)を小さくするため、翼幅方向の主翼のねじれを工夫しています。

実験機(NEXST-1)について

機体の特性、表面気流の状態などを計測する計測系、機体を正確に、かつ安定に飛ばす航法誘導制御系、機体を回収するパラシュートなどの回収系など多数の機器が搭載されています。

実験概要

無動力の実験機NEXST-1は、地上より固体ロケットによって打ち上げられ、分離した後、高度18km、マッハ数2の条件から飛行実験を開始し、空力性能や表面圧力などの技術データを取得し、終了後にパラシュートで回収されます。

第1回飛行実験(2002年7月14日実施)

第1回飛行実験は、2002年1月28日から現地で、打ち上げ用ロケットや実験機などの組み立て、そして全システムの確認試験を順次行って準備を進めました。
2002年7月14日10時31分(現地11時1分)に1回目の飛行実験を行いましたが、打ち上げ直後に実験機がロケットから脱落し、失敗しました。
7月14日の飛行実験失敗の直後から原因調査委員会を発足させ、原因特定のための検証試験、事象明確化のための解析、並びにこれらを基にしたFTA解析を実施し、原因の特定と全事象の論理的解釈を進めてきました。その結果、直接の原因として、「ロケット着火時の加速度、衝撃、振動等によりオートパイロット(AP)が振動・変位したために、APへの5V電源供給ラインが瞬間的に短絡を起こし、一時的に電圧が低下したため、APがリセットし、分離ボルトの着火信号が送られた」を特定するに至りました。
小型超音速実験機(ロケット実験機)飛行実験失敗原因調査報告書(PDF: 2.59MB)

第2回飛行実験(2005年10月10日実施)

第1回飛行実験の原因調査とその後の対策検討を経て、プロジェクトの本来の目的を実現するため、実験の再開に向けてシステムの改修を行いました。
2005年10月10日6時36分(日本時間)にオーストラリア・ウーメラ実験場から打ち上げられた小型超音速実験機は、正常に飛行・着地し、所期のテレメトリ・データを取得して飛行実験は成功しました。
総飛行時間は15分22秒、飛行実験時の高度は12~19km、マッハ数は1.9~2でした。