リブレット実用化技術の研究開発
トピックス
- 2025年1月10日
- 大面積リブレット形状塗膜を施した機材を世界で初めて国際線に導入
- 2024年12月6日
- CO2排出量削減のためのリブレット研究開発"Refresh"が空を飛んでいます
カーボンニュートラルやSDGsが一般的になり、世界的に環境負荷低減技術の研究開発が盛んに進められている中、航空機の燃料消費量低減技術は、経済性はもちろん、CO2排出量削減において益々重要度が増しています。燃費の良い航空機を実現する技術の獲得は、我が国の航空産業の国際競争力確保において重要な課題です。
これからの旅客機は、各空気抵抗成分をコントロールする技術が必須になると考えられます。旅客機は、全空気抵抗の内で表面摩擦抵抗が占める割合が最も大きく、一般に、表面摩擦抵抗が約4割以上を占めます。そのため、空気抵抗を効率良く下げる方法のひとつは表面摩擦抵抗を低減させることです。
表面摩擦抵抗を低減させるための方法として機体表面に微細な溝を付与するリブレットがあります。
リブレット
リブレットとは、機体表面に溝幅0.1mm程度の幅の微細加工を施すことで、表面摩擦抵抗を低減し、燃費削減・CO2排出量を削減させる技術です。既存の航空機に適用でき、レトロフィットできるポテンシャルの大きい技術です。仮に、旅客機の全抵抗の内の約40%が表面摩擦抵抗とし、機体全体に理想的にリブレットを施工できたとし、リブレットで約5%の表面摩擦抵抗が低減すれば、全抵抗は最大で約2%低減すると推算されます。なお、既存の旅客機で1%程度の抵抗低減はとても大きい効果です。(図1)
(図1) JAXA実験用航空機“飛翔”による飛行実験
JAXAの挑戦
JAXAのリブレットは、耐久性を重視し、航空機用の塗料を直接リブレット形状に成形できる技術が特徴です。このリブレットを旅客機で実用化するためには、①リブレットの摩耗による形状変化を飛行で調べること、②30~60mの大きさを持つ旅客機にリブレットを施工できること、③より大きい表面摩擦抵抗低減性能を持つリブレットの創出が必要です。 JAXAはエアラインや企業と協力してこれらの技術課題に挑戦しています。(図2)
(図2) JAL737型機によるリブレット耐久性確認, JAL/O-well/JAXA, JAL/Nikon/JAXA.
①耐久性確認飛行試験
リブレットの耐久性をエアラインの実運用機体、JALの機体(ボーイング737型機)を用いて実証しています。エアラインの要求(付着強度等)を満たすリブレットを、洗浄を含む6回/日程度のフライトサイクルにおいて2、000時間以上飛行し、耐久性が高いことを実証しました。また、リブレット形状のわずかな経年劣化による表面摩擦抵抗低減性能の変化を風洞試験で評価する手法も研究開発しています。
②大面積リブレット施工技術
JAXAが施工メーカと特許を持つ施工技術を、施工メーカ及びエアラインと協力のもと、旅客機に迅速に施工できるレベルに技術改善するとともに、機体整備等の制約のためにリブレットが施工できない部位が点在する場合のリブレット性能への影響を風洞試験により明らかにしています。
(図3) JAL737型機によるリブレット飛行,JAL/O-well/JAXA.
③新しいリブレットの考案
本研究において蓄積された空気力学的な知見と製造上の制約をもとに、施工性と空力性能を両立するリブレット形状を考案しています。JAXAの考案した「片刃形リブレット(特許申請済)」は、従来のリブレット形状に対する表面摩擦抵抗低減性能の向上が数値解析や風洞試験にて確認されています。これは、今後激しくなることが予測される競合相手に対して差別化できる技術です。(図4)
(図4) より良い性能を目指して:片刃形リブレット, 左)JAXA数値解析(流れは紙面垂直方向), 右)JAXAリブレット風洞試験.
協力体制
JAXAは、航空機塗料でリブレット形状を施工する技術を、Refresh:RiblEt Flight RESearcH for carbon neutralプログラムにて、施工メーカー(Owell、 Nikon)、エアライン(JAL)と連携し実運航機体を用いた技術実証などを通じて研究開発を進めています。(図5)
(図5) 協力体制