空旅のユニバーサルデザインに関する研究開発

トピックス

バリアフリー社会の実現には過去より不断の努力が続けられてきましたが、近年ではダイバーシティやインクルージョンという価値観も広がりを見せており、障害者や高齢者を含む、多様な人々が生きやすい社会を実現しようという流れが加速しています。

地上の公共施設や公共交通機関においてはバリアフリー設備の導入が進む一方で、航空旅客輸送におけるバリアフリー設備は限定的であり、今もなお、空間の狭さやフライト中の特殊な環境によって、利用者に肉体的・精神的な我慢を強いているのが現状です。

JAXAでは、障害者、高齢者、乳幼児、そして客室乗務員まで含めた飛行機を利用する全ての人々が、航空券予約から搭乗、降機、空港を出るまでの全ての場面で、負担のない快適な空の旅を楽しめる、“ユニバーサルデザインの空旅”を実現するための研究開発を進めています。


ユニバーサルデザインの空旅を実現するソリューションの提案

JAXAは、全ての人々(*1)が、全ての場面(*2)で負担のない快適な空の旅ができるようになる、設備やシステムのソリューション(解決策)を提案します。飛行機利用者の困りごとを調査し、続いてその困りごとを解決する設備やシステムのアイディアを出し、それらの実現性について技術、安全、運用の観点から検討を重ね、具体的かつ効果的なソリューションとしてまとめました。

(*1)全ての人々:健常者(共通事項)、肢体不自由者、病気/怪我/内部障害等、車椅子利用者、ストレッチャー利用者、視覚障害者、聴覚障害者等、知的障害者/発達障害者、精神障害者、高齢者、妊婦/子ども/障害児、食物アレルギーのある人、体格の大きい人、客室乗務員/地上スタッフ

(*2)全ての場面:航空券予約、空港、搭乗から離陸まで、ドリンク/食事、航行中ベルトサイン点灯、ラバトリー(機内トイレ)使用/通路移動、就寝、IFE(機内エンターテイメント)システム、就寝とIFE以外の機内時間、着陸前準備、着陸前ベルトサイン点灯から着陸まで、降機から空港を出るまで

ソリューションの1つ「エアライン共通で使用できる、スペシャルアシスタンスに関するインフォメーションカード」

ソリューションの1つ「エアライン共通で使用できる、スペシャルアシスタンスに関するインフォメーションカード」

成果

健康、福祉、アクセシビリティのための航空技術に関するフィージビリティスタディ報告書(JAXA-RM-22-001)

車椅子利用者のアクセシブルな飛行機利用実現に向けた予備的調査報告書(JAXA-RM-23-001)

ユニバーサルデザインの空旅を実現する30のソリューション(PDF)

株式会社ジャムコとの共同研究成果

JAMCO‘s CABIN OF THE FUTURE @ AIX2023


「車椅子に乗ったまま搭乗しフライトする」を実現するための研究開発

ユニバーサルデザインの空旅を実現するソリューションの中でも有力なものとして、「車椅子に乗ったまま搭乗しフライトする」ことがあります。車椅子に乗ったままフライトが可能となれば、機内座席移乗時の利用者及び介助者の身体的負担がなくなる、車椅子預け入れの手間がなくなる、自分の身体に合わせた座位保持を維持できる、車椅子の破損や紛失の心配がなくなる、と車椅子利用者の多くの困りごとを解消できます。車椅子利用者の観点からは、個人所有の車椅子で搭乗しフライトできることが望ましいですが、車椅子をフライト中に機内座席として使用する場合は、航空安全レギュレーションに基づく装備品認証が必要なことから、実現には至っていません。

JAXAではまず、現状で実現可能な方法である、レギュレーションに適合した航空機装備品(座席)としての車椅子、「車椅子型座席」の研究開発を進めています。技術開発要素としては、デザイン、固定方法、構造強度、耐火性が重要となりますが、構造強度と固定方法に着目した検討から進めています。

市販の折り畳み式車椅子を使用した静強度試験の様子

市販の折り畳み式車椅子を使用した静強度試験の様子

2023年12月19日更新