Re-BooT(ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証)プロジェクト

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航空機が超音速で飛行すると、機体の周りに衝撃波と呼ばれる急激な圧力変動が生じます。これが地上に伝わると、衝撃性騒音のソニックブームとして観測され、民間超音速機の実現を阻む大きな障壁となっています。

JAXAは、2015年に実施したD-SENDプロジェクトの飛行試験によって「低ソニックブーム設計概念」を実証し、ソニックブーム強度を従来の超音速旅客機の半分に低減する技術を獲得しました。

D-SENDプロジェクト以降は、低ソニックブーム設計概念をさらに発展させ、より広い範囲でソニックブームを静かにするための、「ロバスト低ブーム設計技術」の研究開発を行っています。

Re-BooT※(ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証)プロジェクトでは、この「ロバスト低ブーム設計技術」の実証を行います。

※Re-BooT=Robust en-route sonic-Boom mitigation Technology demonstration


低ブーム設計技術を適用した超音速旅客機のイメージ図

低ブーム設計技術を適用した超音速旅客機のイメージ図


プロジェクト概要

Re-BooTプロジェクトは、「ロバスト低ブーム設計技術の飛行実証」と、「ロバスト低ブーム超音速旅客機の概念機体設計」の2つを目的としています。

ロバスト低ブーム設計技術の飛行実証

JAXAの「ロバスト低ブーム設計技術」を、飛行試験によって実証します。「ロバスト低ブーム設計技術」を適用した実証機を開発し、超音速飛行中に発生するソニックブームを計測して設計通りの波形であることを確認します。

実証機は全長が10m程度の無人機です。実際のエンジンは搭載しませんが、旅客機と同様の機体から発生するソニックブーム波形を評価するために、エンジン設置場所も含めた機体形状を設計します。

実証機は、母機と呼ばれる有人の飛行機に取り付けて上空に運ばれ、約13kmの高度で母機から分離されます。分離した実証機は重力によって超音速に加速し、搭載されたコンピュータによる自律制御によって、地上に設置された計測システムの上空を、指定された位置、速度等の条件で飛行します。

地表付近は不安定な状態の大気によってソニックブーム波形が変形し、低ブーム設計の効果を正確に確認することが難しいため、係留気球を用いて大気の乱れが小さい高度までマイクロホンを掲揚して計測を行います。

飛行試験は、2028年頃の実施を計画しています。

ロバスト低ブーム設計技術実証飛行試験のイメージ図

本飛行実証は、内閣府主導で創設された「経済安全保障重要技術育成プログラム」(通称:K Program)において、科学技術振興機構(JST)が公募した研究開発構想「超音速・極超音速輸送機システムの高度化に係る要素技術開発」に採択された研究開発の一部を行うものです。

JAXAは、K Programでの主たる研究分担者である三菱重工業株式会社(以下MHI)と協力して、飛行実証を行います。JAXAがロバスト低ブーム設計技術を適用した実証機形状を設計し、MHIは主に実証機の開発・製造を担当します。

ロバスト低ブーム超音速旅客機の概念機体設計

飛行試験で実証する「ロバスト低ブーム設計技術」を実機に適用して、静かな超音速旅客機の概念機体の設計を行います。

実際の旅客機として成立するには、ソニックブームの低減に加えて、安全性や商業的な需要に適した航続距離などの様々な要件を満たす必要があります。

設計する概念機体は、国連の専門機関である国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)に提示して、ソニックブームに関する国際基準の策定に貢献する計画です。

ロバスト低ブーム設計技術

ソニックブームが発生するのは、航空機が音速を突破する一瞬だけではありません。超音速で飛行している間はずっと発生しています。

ソニックブームは機体から円錐状に広がって伝わります。地上でソニックブームが聞こえる場所は超音速機の飛行と共に移動し、その軌跡は超音速機の飛行経路の下方に帯状に広がります。これをブームカーペットと呼びます。

「ロバスト低ブーム設計技術」は、ブームカーペット内の全域でソニックブームを小さくする技術です。

D-SENDプロジェクトで実証した低ブーム設計技術は、主に設計巡航速度条件(オンデザイン条件)の飛行経路直下(オントラック位置)におけるソニックブームの低減を実現するものでした。

Re-BooTプロジェクトで実証する「ロバスト低ブーム設計技術」は、設計巡航速度以外の条件(オフデザイン条件)や、飛行経路の側方(オフトラック位置)においてもソニックブームを低減する技術で、国内外で特許を取得しています。

D-SEND(上段)とRe-BooT(下段)の設計技術によるブームカーペットのイメージ図


飛行実証とロバスト低ブーム設計技術の詳細は、こちらの動画で紹介しています。

「超音速機設計技術の研究開発」(6分29秒)


2024年10月1日更新