航空システムの研究

国際民間航空機関(ICAO)では、2050年に国際航空分野のカーボンニュートラルが宣言されるなど、航空産業でも脱炭素社会に向けた動きが強まっています。自然災害への対応や、移動と物流の利便性向上など、航空に求められる要素が多様化し、拡大しています。このような世界的な動きに合わせて、従来の航空機の枠にとらわれない新しい航空機や活用方法も数多く提案されています。

JAXAではこのような世界の動きを踏まえ、研究開発とその効率化を進めるために、将来の航空機概念とそれらを実現する技術の検討や、要素技術のシステムレベルでの性能評価、設計ツールの共通化・共有化を進める活動を組織的に取り組んでいます。

概念設計

水素航空機の検討

世界的にも研究開発が進んでいる液体水素を燃料とする航空機について、3種類の条件で検討を進めています。

  • 水素ガスタービンと胴体尾部BLI(Boundary Layer Injection)ファンを含む電動ハイブリッド推進システムの亜音速旅客機体
  • 水素電動分散推進システムを搭載したBWB(Blended Wing Body)型旅客機体
  • 低ブーム性能を持つ水素ガスタービン推進の超音速旅客機体

いずれも、比較対象とする航空機を参照して、航続距離と乗客数を維持できるようにシステム仕様や機体形状の設計を進めています。 また、水素航空機でカーボンニュートラルに寄与するために効果的な技術要素の特定と目標設定を行い、効率的な研究開発に取り組んでいきます。

概念設計対象とした3種類の液体水素燃料航空機

概念設計対象とした3種類の液体水素燃料航空機

災害対応航空機の検討

安全・安心な社会を実現するために、近年多発している林野火災を迅速かつ的確に消火する航空機の検討を進めています。 我が国では毎年1,000件以上の林野火災が発生しており、地方自治体の消防署にヒアリングを行って、ニーズを明らかにしています。 それらニーズと国土の特徴などを踏まえて、航空機の設計を進めています。

多用途型災害対応航空機システムELSA(Extended Life Saving Aerial-system)

多用途型災害対応航空機システムELSA(Extended Life Saving Aerial-system)

「空飛ぶクルマ」の検討

「空飛ぶクルマ」と呼ばれる次世代航空機(AAM: Advanced Air Mobility)は、人や物の移動の利便性を向上させる新たな交通手段として、 今後利用が拡大していくと考えられており、経済産業省や国土交通省をはじめとして、国内外の多くの関係者による具体的な議論が進んでいます。 空飛ぶクルマの運用概念(ConOps)の策定が進む中で、利便性の向上に繋がる都市部へのAAM進入の具体化を進めるため、 システムズエンジニアリング(SE)の考え方に則って課題の洗い出しと定量的実現性検討を行ないました。

経路や離着陸地点の具体的な想定からシステムズエンジニアリング(SE)による要求抽出と、定量的実現性検討

経路や離着陸地点の具体的な想定からシステムズエンジニアリング(SE)による要求抽出と、定量的実現性検討

設計ツールの共通化・共有化

航空技術部門で進める研究開発の中で開発された設計・評価・解析ソフトウェアをカタログ化し、部門で活用できるツールとして共通化・共有化を促進しています。

また、航空機の概念設計・システム評価ツールの開発を進めています。この活動により、異分野の技術を融合したシステム評価が可能となります。 例えば、既存の航空機に空気抵抗を低減させる技術とエンジンの燃費を向上させる技術を組み合わせて適用した場合に、航空機全体として燃費がどのくらい向上するのかといった評価が可能となります。 逆に、個別の要素技術(例えば空力抵抗)がどのくらい下がらなければ、航空機全体として目標とする燃費低減はできないかという分析を行うことで、技術開発目標の設定にも活用しています。


2024年7月16日更新