[開催報告] JAXA航空シンポジウム2021
-人と環境に優しい持続可能な航空利用社会へ-

2021年11月5日、御茶ノ水ソラシティにおいて「JAXA航空シンポジウム2021〜人と環境に優しい持続可能な航空利用社会へ〜」を開催しました。

今年は、第4期中長期計画の中間地点でもあります。JAXA航空の“これまで”として、第4期中長期計画の概要及び進捗状況を紹介するとともに、JAXA航空の“これから”として、「研究ビジョン最終取りまとめに向けたJAXAにおける検討の最終報告」に基づく部門の方針と具体的な事業を紹介いたしました。
(当日のプログラムは、こちらからご覧いただけます。)

特別講演では、三菱航空機株式会社の森野 裕行氏と東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授/名誉教授 鈴木真二氏にご登壇いただき、JAXA航空が“これから”取り組む具体的な事業から「航空機ライフサイクルDX技術」と「多種・多様運航統合/⾃律化技術」をテーマにご講演いただきました。

また、ホールに隣接するテラスルームとロビーでは、最新の研究成果を発表する研究ポスター展示を行いました。

会場へお越しいただいた多くの皆さまや、ライブ配信をご覧いただいた皆さまに、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

会場の様子


開会挨拶、第4期中長期計画の概要と成果



午前の部では、山川宏 理事長のビデオメッセージによる開会挨拶に続き、渡辺重哉 事業推進部長が「第4期中長期計画の概要と成果」について報告を行いました。

JAXA航空技術部門の概要、第4期中長期計画(2018〜2024年度)の概要に続き、主要研究開発課題である「コアエンジン技術実証」「超低燃費航空機技術の研究開発」「超音速旅客機実現に向けた研究開発」「エミッションフリー航空機実現に向けた研究開発」「災害・危機管理対応統合運用システム(D-NET)」については、第4期の折り返し点である現時点までの主要な成果について概説しました。さらに、産学官連携の取り組み、研究制度・組織の改革などについても紹介がありました。

写真上から、山川 宏 JAXA理事長、
渡辺重哉 航空技術部門 事業推進部長、
司会 大西卓哉 宇宙飛行士/有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター技術領域主幹

En-Coreプロジェクト(コアエンジン技術実証)~環境技術の実証に向けて~

山根 敬
航空技術部門 コアエンジン技術実証(En-Core)プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ

En-Coreプロジェクトの目標や現在の進捗状況についての報告が行われ、課題である「超低NOxリーンバーン燃焼器」と「高温高効率タービン」については、現在パートナー企業と共同研究を行なっており、目標達成に必要な技術の確認は完了、プロジェクトゴールの技術実証にいよいよ挑むとの発表がありました。

気象影響防御技術の研究開発 ~世界初の航空機気象影響防御システムの開発に向けて~

神田 淳
航空技術部門 航空安全イノベーションハブ長

特殊気象に対応する世界初の航空機気象影響防御システム(WEATHER-Eye)の研究開発について発表。一部システム「滑走路氷雪検知技術」と「避雷危険性予測技術」については2020年代半ばの実用化を目指しており、さらに2030年頃のWEATHER-Eyeの完成に向け、オールジャパン体制での研究を推進しているとの報告がありました。

災害対応航空技術の研究開発 ~空からの安全・安心な社会への貢献を目指して~

奥野善則
航空技術部門 航空利用拡大イノベーションハブ 災害・危機管理対応技術チーム長

「D-NET」の歩みやこれまでの実績、今後の展開が各地での実証実験映像と共に報告されました。現在「D-NET3(災害・危機管理対応統合運用システム)」の研究開発が進められており、東京オリンピック・パラリンピックでの警備・警戒における空域統制の結果を反映し、災害対応に関わる政府機関への普及も目指すとの目標を示しました。

特別講演①:
航空機開発プロセスの革新に向けたMBSE適用について

森野裕行
三菱航空機株式会社 技術部 主席部員

航空機開発におけるMBSE(Model Based SE)の必要性をお話しいただきました。システムの全容を決めた形で視覚化するMBSEの活用が、三菱スペースジェット開発において蓄積してきた経験をもとに紹介され、講演の締めくくりではJAXAが推進する「航空機ライフサイクルDXプロジェクト」への大きな期待も語られました。

特別講演②:
次世代エアモビリティの実現に向けた国内外の状況、課題、将来展望

鈴木真二
東京大学名誉教授/未来ビジョン研究センター特任教授

無人航空機の新たな制度と、空飛ぶクルマの開発をテーマに講演が行われました。ドローンの活用状況をベースに、機体認証やライセンス制度などのルール作りについての解説、また空飛ぶクルマの国内外の動きについて紹介。総括として、エコシステムに左右される航空業界において、技術課題に加えた環境整備の重要性が挙げられました。

JAXA航空が目指す将来像 ~人と環境に優しい持続可能な航空利用社会へ~

張替正敏
JAXA理事/航空技術部門長

プログラム後半のスタートは、宇宙航空研究開発機構 理事/航空技術部門長 張替正敏によるJAXA航空技術部門の未来像についての講演が行われました。JAXAは航空輸送、航空利用拡大、航空産業の3つの分野から、人と環境に優しい航空利用社会を目指しており、分野ごとに10年後の姿が課題とともに語られました。特にCO2排出量低減、静超音速機技術、多種多様運行統合、航空機ライフサイクルDX技術への取り組みについて4つの重点課題として紹介しました。

電動ハイブリッド推進技術の研究開発 ~CO2排出量の削減を促進する新しい技術への転換を目指して~

西沢 啓
航空技術部門 電動ハイブリッド航空機チーム長

航空業界のCO2排出削減に向け、JAXAの航空機エンジン電動化計画が発表されました。JAXAでは、CO2削減に寄与する新しい技術方式として推進系電動化を旅客機に適用することを目指し、国内の各機関と連携を図りながら重要技術の研究開発に取り組んでいくとの方針を述べました。

静粛超音速機統合設計技術の研究開発 ~陸上超音速飛行を可能とする実用的なソニックブーム国際基準の策定に向けて~

牧野好和
航空技術部門 静粛超音速機統合設計技術実証チーム長

民間超音速機に関する動向と実現に向けた課題、また2016〜2020年度にかけてJAXAが実施した研究開発成果と今後の方向性について報告。また、NASAやボーイング社との国際共同研究を開始するとともに、国内ではJSR協議会を立ち上げ国内ステークホルダーとの協議を開始したとの発表もありました。

多種・多様運航統合技術の研究開発 ~日常も災害時も誰にでも航空機の恩恵を~

小林啓二
航空技術部門 航空利用拡大イノベーションハブ 多種機体・多様運航統合技術チーム長

「D-NET」と無人航空機の運行管理技術「UTM」について紹介がありました。今後はD-NETを拡張し、無人機・eVTOLにも対応可能な運行管理システムの研究開発を進め、2025年に開催される大阪万博でのeVTOL高密度運行管理技術の飛行実証を目指すとの目標が示されました。

航空機ライフサイクルDX技術の研究開発 ~航空産業の国際競争力強化と革新的な航空機の創出に向けて~

青山剛史
航空技術部門 航空機ライフサイクルイノベーションハブ長

JAXAが取り組むDX技術の中でも主要な3テーマ「テジタル統合設計」「デジタルフライト」「デジタルテスティング」について、実施内容が報告されました。発表の後半には、実装に向けた国際認証への参画や、ステークホルダーのニーズ吸い上げと技術の実装先として想定している「航空機DXコンソーシアム」の検討状況も紹介しました。


ポスター展示一覧

ポスター展示のデータをご覧いただけます。

  1. 旅客機機体騒音低減技術の実証(PDF: 3.21MB)
  2. 環境に優しい将来旅客機実現に向けた研究開発(PDF: 442KB)
  3. 電動航空機用ハイブリッド推進システムの技術実証(PDF: 3.10MB)
  4. 気象影響防御技術の研究開発(WEATHER-Eye)(PDF: 6.21MB)
  5. スマートフライト・運航判断支援技術の研究開発(PDF: 1.35MB)
  6. 災害対応航空技術の研究開発(D-NET)(PDF: 6.20MB)
  7. 小型無人機 自動飛行・ミッション性能向上技術の研究開発(PDF: 6.32MB)
  8. 多種・多様運航統合技術の研究開発(PDF: 1.96MB)
  9. 先進空力センシング技術(PDF: 1.31MB)
  10. 飛行試験データへのベイズ推定の適用による空力特性解析(PDF: 1.09MB)
  11. 航空宇宙構造の新しい設計/製造/運用プロセスを目指したライフサイクルモニタリング(PDF: 1.46MB)
  12. 航空機構造軽量化に向けた複合材ステアリング積層設計技術の研究(PDF: 3.08MB)
  13. 脱炭素化に向けた推進技術の研究(PDF: 4.34MB)
  14. 技術実証用ターボファンエンジンの導入と技術実証試験の開始(PDF: 1.15MB)
  15. MBSE (Model-Based Systems Engineering) を用いた航空機のデジタル統合設計に関する研究開発(PDF: 1.83MB)
  16. デジタルフライトを目指したCbA (Certification by Analysis)に関する研究開発(PDF: 2.11MB)
2021年11月19日更新