静かな空を手に入れよう!

JAXAメールマガジン第247号(2015年7月6日発行)
徳川直子

前々回は「理想の空」を手に入れるお話でしたが,今回は「静かな空」のお話です。

空ってウルサイですよね?
飛行機やヘリコプタが飛んでくれば必ずわかりますもの。
特に空港周辺に居住されている方には大変重要な問題だと思います。
航空による輸送量はどんどん増えていて、今後20年間で3倍近くにもなると予想されています。ですので、より一層、騒音に対する対策をとることが求められると考えられます。

旅客機に対する騒音については、国際民間航空機関(ICAO)が、空港周辺での騒音レベルに規制値を設けています。そして、その規制は今後ますます厳しくなっていくと考えられており、各航空機メーカやエアラインではその対応に取り組んでいます。

JAXAでも航空機の低騒音化に取り組んでいます。
例えば「機体騒音低減技術の飛行実証(FQUROH(フクロウ): Flight demonstration of QUiet technology to Reduce nOise from High-lift configurations)」プロジェクトでは、旅客機の機体から発生する騒音を低減する技術の開発および実証に取り組んでいます。
旅客機が着陸する際にはエンジンのパワーを絞っているため、エンジンから発する騒音よりも機体そのものから発する騒音が顕著になってくるからです。
機体騒音は、高揚力装置(フラップやスラット)や降着装置(脚)から発生することがわかっています。そこで騒音がどこから、どのように発生するか、という機構を、詳細な数値解析(シミュレーション)や実験によって調査し、実際の旅客機に適用可能なデバイスを考案しています。

航空機が発生する騒音として、忘れてはならないものが「ソニックブーム」です。
ソニックブームは超音速機固有であるため超音速旅客機が運航していない現在では身近で聞くチャンス(!?)がありません。が、もし聞くチャンスがあったとしたら、チャンスなどとのんびりしたことは言っていられないでしょう。ソニックブームは、亜音速機の騒音とは全く異なる瞬間的な爆音であるだけでなく、強い(大きい)場合(例えば、隕石がマッハ数十で落下した場合)には窓ガラスが割れることもあると言われています。そのため、2003(平成15)年に退役したコンコルドは、ソニックブームにより地上を超音速で飛行することができませんでした。
このソニックブームについてもJAXAでは、低減するための研究・開発を行っています。「次世代静粛超音速機機体概念」では、陸上でも超音速飛行を可能に機体の概念設計に取り組んでいますし、「D-SEND(Drop test for Simplified Evaluation of Non-symmetrically Distributed sonic boom: 低ソニックブーム設計概念実証)」プロジェクトでは、その飛行実証に取り組んでいます。

ちょうど本メールマガジンが発行される1週間前の6月29日から、D-SENDプロジェクトの第2フェーズ試験(D-SEND#2)の試験期間が開始となりました。
D-SEND#2は、前にもご紹介したように、気球に吊り下げて高高度まで上昇させた実験機を、ソニックブームを計測する装置の近くで気球から切り離し、飛行させます。この試験成功すればトリム(飛行バランス)をとりながら機体後端のソニックブームを低減する世界初の技術実証となります。
昨年は、残念ながら、実験機を吊り下げた気球を計測位置まで運ぶための風の条件を満足する日がなく、結果として飛行実験が出来ませんでした。
今年は6月29日から8月31日までの間の、気象その他の条件が整った日に飛行実験を行う予定です。
飛行実験で「静かな空」を手に入れられるよう、気象条件が整うことを祈るばかりです。