宇宙航空研究開発機構

MuPAL-ε イリジウム衛星通信評価試験

MuPAL-εの2007年の初フライトは、イリジウム衛星通信システムの信頼性評価試験です。このシステムについては、実験用航空機レポートの2006.8.4日付けでその概要を、また2006.10.11、11.15日付けでこのシステムを用いた災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)の飛行試験について報告してきました。今回の試験は、この通信システムが実際の飛行中にどの程度の確実性で通信を行うことができるかを調べるためのものです。

ヘリコプタは飛行機に比べて低高度を飛ぶことが多く、地上波を使った無線通信では山等の陰になって電波が届かないため、衛星通信システムの普及が期待されています。従来の衛星通信システムはアンテナのサイズが大きかったため、ヘリコプタでの利用はごく一部に限られていましたが、イリジウム衛星(http://www.iridium.com/)はアンテナを非常に小さく(直径10cm程度に)することが可能なため、ヘリコプタに適した通信システムと考えられています。日本では昨年度から正式なサービスが開始されました。

多くの通信衛星は地上から常に同じ場所に見える静止衛星(軌道高度:約36,000km)ですが、イリジウム衛星は、高度約780kmの低軌道に 66個の衛星を配置することにより、アンテナの小型化を実現しています。各衛星は約100分間で地球を周回するため、通信可能な衛星の位置は時々刻々変化します。衛星の仰角(水平線からの角度)が低い場合、アンテナの背後にあるメインロータヘッド(図1)によって電波が遮断されたり、あるいは機体の姿勢が衛星と反対側に傾いたときに感度が落ちて通信が途切れる場合があります。実際に、これまでの飛行試験でも通信が途切れたことがありました。

ヘリコプタは胴体の上にロータやエンジンが位置しているので、飛行機に比べてアンテナを取り付けられる場所が限られています。将来的に、航空管制のように安全性に係わる通信にイリジウム衛星を用いる場合には、通信の確実性の確保が重要な課題になります。今回の試験では、機体の機首方位や姿勢角等のデータと衛星の配置とを照合し、どのような条件で通信が途切れるかを詳しく調べました。


図1 MuPAL-εに取り付けられたイリジウム衛星通信アンテナ

通常の飛行試験では、途中で何らかのトラブルが発生した場合、試験項目や試験時間を変更することもあるのですが、今回の試験では、時々刻々変化するイリジウム衛星の配置に合わせて分単位で試験計画を立てているため、遅れややり直しが許されません。計測員やパイロットにとってもプレッシャーのかかる試験です。

図2 調布飛行場から離陸するMuPAL-ε(12日)。
イリジウム衛星の配置条件に合わせて13:05に離陸するため、昼休みを返上しての飛行準備となりました。
2時間後の15:05に戻ってきました。

図3 イリジウム衛星通信によって送られてきた試験中の飛行軌跡の例(赤い点)。
調布飛行場から離陸後、北関東方面に飛行しました。

今回の飛行試験では、ちょっと変わった飛び方をする試験項目がありました。通常、航空機は旋回するときは機体を横に傾けて(「バンクをとる」と言います)飛行しますが、衛星に対する機首方位と機体の傾きの影響を切り分けて評価を行うために、「機体を傾けずに(バンクをとらずに)旋回して欲しい」というお願いをパイロットにしています。JAXAの「打たれ強い」パイロットはこのような要求にも応えます。


天候にも恵まれ、2日間の試験で予定のデータを全て取得することができました。MuPAL-εは来週、耐空検査にむけた整備のために名古屋入りする予定です。

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