第4期中長期計画インタビュー

内外の力を結集し、
ハイインパクトな成果を創出

次世代航空イノベーションハブ長 伊藤 健ITO Takeshi

伊藤健

イノベーションハブが取り組む
新たな分野の研究

“次世代の航空技術を創造し、イノベーションを起こす”。異分野・異業種も含めた多様な分野の連携によるオープン・イノベーションを通じて、新たな視点の研究テーマを創出し、研究開発成果の社会実装を実現することがイノベーションハブの役割です。
例えば、「電気の力で飛行機を飛ばせないか」、「気象の影響を受けにくい飛ばし方はないか」、「災害時にはどう対応できるか」など、これまで航空分野で長年研究されてきたエンジンや空力、基盤領域の技術とは異なる方向性の研究に着目しています。
第4期中長期計画では、大きな効果が期待できるテーマとして「気象影響防御技術」「エミッションフリー航空機(電動航空機)技術」「スマートフライト技術」「装備品認証基盤技術」「災害対応航空技術」「無人航空機技術」の6テーマを絞り込み、研究開発を推進中です。
ハブのポイントは、外部との連携によってニーズを探るため、研究目的が明確でアウトプットに至るスピードが比較的早いという点。特にここ4〜5年間に渡り続けてきた気象関連のテーマからは大きな成果が出てきています。

「気象影響防御技術(WEATHER-Eye)」では、特殊気象(雪氷・雷・火山灰)における航空機運航の安全性を向上させる研究開発を行なっていますが、降雪地域の空港を悩ませる滑走路上の氷雪について、雪の厚さ・水分量などの雪質を、滑走路埋設型のセンサーにより遠隔で調べることが可能となっています。すでに試作機でのフィールド実験は行われており、来年度以降、空港での実証実験も見込まれています。
また、被雷については、AIを使い気象データから落雷を予測した飛行ルートを組むことが可能となりました。飛行機への搭載はまだ先になりますが、地上に配備して飛行機を誘導する方法が、近く実験的に展開していく予定です。

一方、「エミッションフリー航空機技術」は、現在プロジェクト化に向け課題の検討を行っている状況ですが、近年、各方面から急激に注目を集めている分野です。我々の重要な活動としては、興味を持つ技術者、研究者を集め人材を確保すること。電動航空機については飛行機の分野だけでなく、バッテリーや変圧器、サイリスタなど各種パワーエレメントやデバイスをつくる企業など、様々な技術が必要です。各方面の専門家を集めてコンソーシアムという集団を作り、JAXAが旗振り役として動き始めているところです。

航空工学の枠を超えた
多分野の知の結集

さらに新たな外部との繋がりを求める取り組みが、JAXA以外から新たなアイデアや研究テーマを募る『イノベーションチャレンジ』です。テーマを募集するところから始め、良いアイデアは航空技術部門の設備や研究員も使い一緒に進めましょうという取り組みです。
今年度3回目を迎える募集ですが、初回から手ごたえのあるテーマが発掘されています。昨年まで継続していた1回目のテーマでも、複合材の修理技術やSOFC(固体酸化型燃料電池)の基礎技術など興味深い研究が取り上げられました。まだまだ基礎段階ではありますが、将来SOFCを電動飛行機に採用される技術に成長するかもしれません。
3回目となる今年も、電動航空機や無人機に関するテーマが採択されており、思った以上の成果が出ているのは嬉しい驚き。今後もイノベーションチャレンジを活用し、新たな研究テーマと協力先と探索していきたいと考えています。

また、現在進んでいる研究の一つに「災害・危機管理対応統合運用システム(D-NET3)」があります。災害時における救援航空機の運航管理システムで、救援ヘリコプターやドローン、ドクターヘリなどが、効率的にそして安全に救援活動を行うための技術です。
このシステムを進化させれば、災害対策本部の中に発生しがちなスタッフ間の密状態を避けられるのではないかという声が上がり、具体化し始めています。今秋には新システムとしての実用化も検討しており、新型コロナウイルス対策の一助になればと考えています。
このようにイノベーションハブでは、斬新な発想から、近い将来における具体的な技術、アイデアを即具現化していく小回りの利く研究まで、多様なテーマが進められています。
それらの実現に向けて、今の技術をどう向上させていくのか、技術のロードマップも念頭に置き、さらに成果につなげていく活動を、今年度引き続き進めます。

広く人材・知を糾合し、
さらに効果的・効率的に研究開発を進める

ハブの考えをいかに広めるかは、所属する研究者の意識にかかっています。ニーズ、シーズはJAXA外にあることも多く、また研究成果の評価もJAXA外で受けてこそ社会で認められるものです。外部と繋がろうという意識が浸透することで、活動がより活性化されていくものと思われます。
実は過去の我々は自らの研究をタコ壺と揶揄するほど内にこもっていた時代もあり、それではよくない、とにかく外へ出て行こうとし、具体的に方向転換したのが第3期中長期計画のときでした。その頃は航空機メーカーを相手に出て行く姿勢でしたが、第4期からは、異分野・異業種に積極的にアプローチしています。こうした試みは航空技術部門全体としての方向性でもありますが、その役割の中心を担うのがイノベーションハブという組織だと思っています。技術目標はもちろん大切ですが、ハブとしては、より広い繋がりやネットワークを強く意識した活動を今後も進めていきます。

Profile

次世代航空イノベーションハブ ハブ長 伊藤 健
1989年、航空宇宙技術研究所(現JAXA)に研究員として入所。新型航空機研究グループ、空気力学部、風洞技術開発センター等で流体科学研究に携わり、実験的な空力技術研究を専門に宇宙往還機の熱空力特性や旅客機の騒音計測、風洞を利用した各種試験計測技術の研究を行ってきた。その後、米国パデュー大学客員研究員、科学技術庁航空宇宙開発課課長補佐、JAXA航空本部技術研究企画室長、空力技術研究グループ長等を経て2015年、次世代航空イノベーションハブ ハブマネージャ、2020年、現職。イノベーションハブでは各種の社会ニーズに応えることを目指し、JAXAでの新たな課題として、装備品認証なども含め技術の社会実装にイノベーションハブ設置時から取り組んでいる。

2020年8月20日更新