宇宙航空研究開発機構

MuPAL-εGPS評価~MuPAL-αとのシンクロ飛行

MuPAL-ε の本日のフライトは、機体に搭載されているGPS受信機の精度評価試験です。

GPSは既に航空機でも広く使われています。とりわけヘリコプタでは、捜索、報道等のミッションでパイロットが不慣れな場所を飛び回る機会も多く、カーナビと同じように自分の位置を瞬時に知ることができるGPSはもはや必需品とも言えます。

カーナビを使っていて、実際の場所とは違う道路を走っているように表示されることがたまにあります。これは、GPSの精度が一時的に悪くなって起こるのですが、GPSの精度はさまざまな原因によって変化します。例えば、周りに高層ビルがたくさん建っているような場所では、GPS衛星からの電波が届きにくかったり、あるいは周りのビルで電波が反射して実際とは異なる距離が計算されたりします。テレビの「ゴースト」(映像が2重に映る現象)と同じ原理で、「マルチパス」と呼ばれています。

ヘリコプタは、飛行機と違って胴体の上にエンジンやローター等の構造物があります。胴体の上にGPSアンテナを取り付けると、これらの影響によってGPS衛星からの電波が遮蔽されたり、マルチパスが発生したりすることがあります。

ヘリコプタの胴体の上にGPSアンテナを付けると、エンジンやローターの影響によって精度が悪くなる場合があります。


今回の試験の目的は、ヘリコプタのMuPAL-ε と飛行機のMuPAL-α で同時に飛行し、GPSで機体の位置を計測する精度を比較して、マルチパスのような現象の解明に必要なデータを取得することです。

JAXAの格納庫を出て調布飛行場に向かいます。MuPAL-α の後にε が続きます。


10:30、予定どおり準備が完了し、試験開始です。まず始めに、低い高度(地上数m)でホバリングしながら機体の向き(方位角)をぐるぐる回す試験を実施しました。こうすることで、機体から見たGPS衛星の位置を変えながらマルチパスの影響を計測することができます。

ホバリングの試験を実施しているところです。地面に書かれている白線は、基準となる方角を示しています。この場所は調布飛行場内の滑走路の横にあり、本来は航空機に搭載されている方位計(マグネチックコンパス)の精度を確認するための場所です。



MuPAL-α も準備が整い、離陸を始めます。



MuPAL-ε がホバリングの試験を実施している横をMuPAL-α が離陸していきました。離陸が完了するまでは安全のためにホバリング試験を中断し、着地して待機します。



続いてMuPAL-ε も離陸しました。調布飛行場から東方向に離陸し、その後、針路を北に向けます。写真は離陸直後に都心方面を写したものです。右奥には新宿の高層ビル群が見えます。少しもやがかかっており、視程は10km程度です。


上空に到達し、MuPAL-ε、α とも準備が整ったところで、タイミングを合わせて同時に旋回し、GPSのマルチパスの影響を比較する試験を行いました。と言っても、お互いにはるか離れた場所を飛んでいるので相手の姿は見えません。無線で連絡を取りながらタイミングを合わせました。MuPAL-α の方は、今日は別の試験(超小型GPS補強型慣性航法装置「Micro-GAIA」の飛行評価)のためのフライトですが、飛行方法がほとんど同じなため、同時に実施することにしました。

MuPAL-ε の方は、以前「イリジウム衛星通信評価試験」(2007年1月11日実験用航空機レポート参照)でも実施した「機体を傾けずに(バンクをとらずに)旋回する」という試験項目も実施しました。GPSの信号を受信する際に、機体のバンク角の影響と機首方位角の影響を分けて計測するためです。

航空機が旋回するとき、通常は機体を横に傾け、滑り指示計(通称「ボール」と呼ばれています)を真ん中に保つようにペダルを操作します。「釣り合い旋回」と呼ばれます。この状態では、乗っている人は横方向のG(体が横に押しつけられる感覚)は感じません。旅客機に乗って旋回しているときでも、周りの景色は大きく傾いていても横のGはほとんど感じないと思います。今回の試験のような旋回の仕方をすると、乗っている人は横のGを感じるため、あまり気持ちの良いものではありません。


機体を傾けずに旋回している時の計器表示の様子。姿勢儀はほぼ水平に保たれ、旋回指示計は右旋回を示し、滑り指示計は左に寄っています。左隣にある計器は速度計で約70kt(時速130km程度)、右にある時計のような計器は高度計で約3000ft(910m 程度)を示しています。


試験は順調に終了し、帰投します。前方の左右に広がっているのが調布飛行場です。滑走路の横から進入するのはヘリコプタならではです。



11:40、MuPAL-ε が一足先に着陸しました。着陸直前、右手にJAXAの飛行場分室(青い屋根の建物等)が見えます。



エンジンを停止し、機外に出るとちょうどMuPAL-α も降りてきました。お疲れ様でした...



この後すぐに次のミッションに備えて仙台空港に向かうため、燃料を補給しています。約400リッターほど追加しました。満タンでは約1200リッターも入ります。乗用車ならおよそ20台分!

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