南部 太介

数値解析技術研究ユニット 燃焼・乱流セクション 研究開発員

1987年生まれ。2014年10月早稲田大学大学院基幹理工学研究科博士後期課程修了、日本学術振興会PDを経て、2015年宇宙航空研究開発機構入社。大学では数値シミュレーションを用いた風洞壁干渉の研究に従事。入社後、燃焼器を対象とした数値シミュレーション技術の研究に従事。

数値シミュレーションで世界と戦えるエンジン作りを

― 現在の研究内容について教えてください。

航空機エンジン内の燃焼や乱流現象の数値シミュレーション技術を研究しています。特に力を入れているのは、エンジン燃焼器のノズルから噴射された燃料が細かい粒になっていく過程のシミュレーションです。燃料の粒の大小は燃料の蒸発速度に大きく影響します。噴射された燃料がどのくらいのサイズの粒になり、どのように空間に分布するかを予想することは、理想的な燃焼を実現する上で非常に重要になります。しかし、このあたりの現象はまだよく分かっていない部分が多いです。特に、燃料の噴射口の近傍は実験で計測することは難しく、シミュレーションでの解明が期待されています。ただし、気体と液体が混在した流れであることや、細かく速い現象を扱うため、シミュレーションとしての難易度は非常に高いです。
もう一つ、国の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的燃焼技術」という非常に大きなプロジェクトの中で、航空機やロケットの研究で培ってきた数値シミュレーション技術を活かし「HINOCA」という自動車エンジン用解析ソフトのコアプログラム部分の開発を行っていました。自動車業界の研究現場では非常に短時間で解析結果を出すことが求められており、これは精度を追い求めるサイエンス的な数値シミュレーションとはまた違った難しさが伴います。しかし試行錯誤の上、従来の手法で非常にコストがかかっていた計算格子作成に関わるコストをほぼゼロとした、低コストの解析ソフトを作ることができました。

― JAXAを目指したきっかけは何ですか

航空宇宙の研究室に進んだ大学4年の時に、JAXAの技術研修生として風洞の壁の干渉を研究したのがきっかけです。風洞には壁があるので、計測の結果から壁の影響を取り払わないと、実際に航空機が空を飛んでいる状態をつかめません。そこで、壁を含む場合と含まない場合の数値シミュレーションを比較して壁の影響を見るという研究が行われていました。しかし、当時研究対象とした風洞の壁は多孔壁となっており、その影響が大きかったので、私は多孔壁のモデル化をまず担当しました。そこで開発した多孔壁モデルを用いて風洞の壁を含むシミュレーションを行った時、その結果が風洞の測定結果とピタッと一致しました。この時、研究をとても楽しいと感じ、その後、この研究で博士論文を書き上げることとなりました。

― 今後の目標はどのようなものですか

航空機エンジンの開発において、予算と時間が潤沢にあれば試作エンジンをどんどん作って試行錯誤ができますが、予算にも時間にも限界があるためそうはいきません。そこで、開発の初期段階で数値シミュレーションが特に重要な役割を果たします。シミュレーションである程度の当たりをつけてから、実際の詳細な設計に入れると効率的だからです。ただし、航空機形状のシミュレーションなどに比べると、エンジン内のシミュレーションは実際の開発現場で用いてもらうにはまだまだなところが多く、課題はたくさんあります。私の大きな目標は、世界トップレベルのエンジンシミュレーション環境を整備し、日本のエンジン作りが世界と戦っていけるような開発環境を作るということです。航空機エンジンの研究開発の未来については、エンジンを研究している他の若手研究者たちと勉強会をしながら、いろいろな議論を重ねています。
また、良い評判を得ているHINOCAですが、まだ改善の余地があります。HINOCAをより使いやすいものとし、日本の自動車業界に貢献できるようなプログラムにしていければと考えています。

― 航空技術部門を目指す後輩へのメッセージをお願いします

JAXAの特に航空技術部門では入社1年目から即戦力として期待されますし、比較的自由に研究できる風土があります。もちろんプロの研究者としてシビアな要求もされますが、私はとてもやりがいを感じています。また、数値シミュレーションの研究者としては、日本有数のスーパーコンピューターで研究ができる環境はとても魅力です。

エンジン燃焼器のノズルから噴射された燃料の微小な粒の様子をとらえた数値シミュレーションを前に

このインタビューは、JAXA航空部門広報誌「FLIGHT PATH No.23」からの転載です。
所属・肩書などは取材当時のものです。

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