アンドレア・サンシカ

航空機ライフサイクルイノベーションハブ/デジタル統合設計技術チーム
1986年イタリア・ローマ生まれ。
ローマ・ラ・サピエンツァ大学 宇宙工学部 修士課程修了
2011年 英国クランフィールド大学研究課程 修士取得
2015年 英国サウサンプトン大学 空気力学及び飛行力学学部(Department of Aerodynamics and Flight Mechanics)博士号取得
2016年 フランス国立宇宙研究センター(CNES)にポスドクとして勤務
2018年5月 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙航空プロジェクト研究員
2021年4月~JAXA 航空機ライフサイクルイノベーションハブ/デジタル統合設計技術チーム 研究開発員

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ロマンティックフロー、仕事の中にも遊び心を。

― 現在の研究内容について教えてください。

JAXAで航空機ライフサイクル・デジタルトランスフォーメーション(DX)技術の研究開発に携わっています。航空機の実物に対する「デジタルバージョン」、つまり「デジタルツイン」を創りだし、そのデジタル空間上で、設計開発、認証、その他各種作業を行えるようにすることを目指しています。これらを航空機の実物でなく、デジタル空間の航空機上で行うことで、時間とコストを大幅に削減できます。「電子を動かすことは、原子を動かすよりも早くて安い」という発想です。現在は、数値や実験の研究者とともに、航空機設計のデジタル化をサポートするため、物理ベースおよび人工知能(AI)ベースの新しいシミュレーションツールの開発に取り組んでいます。これらのツールを正確にテストし検証することで、航空機の性能と安全性を高めることができます。この研究開発は、より安全でより環境に優しいサステイナブルな次世代航空機に命を吹き込む、とてもエキサイティングなプロジェクトなのです。

SNSにも掲載されたこの画像はどんな事象を示すものでしょうか。

航空機設計フェーズのデジタル化をサポートするため、私はJAXAの“FaSTAR”をベースにした数値ツールを開発中です。数値ソフトウェア開発で重要なのは、既存の他のソフトウェアと比較・試験を行って、その数値ツールが正確に動作することを確認する「検証と妥当性確認」のステップです。その一環として2次元円柱周りの非圧縮流れを検証していたとき、速度の変動成分をプロットすると、非定常後流にハート型の構造が出現することを発見しました。そこで私は遊び心も込めて、このシリンダーフローを「もっともロマンティックなフロー」と名付けました。

― JAXA航空技術部門を目指したきっかけ、理由を教えてください。

JAXAの航空技術部門は世界をリードする機関で、最先端の航空科学研究を行うほか、多くの風洞を運用しています。私が最も惹かれたのはワールドクラスのパワフルなスーパーコンピューターJSS3を使える可能性です。実験と数値の研究者が直接協業できるということもJAXA航空部門のユニークな特長であり、研究開発をインパクトのある社会実装とイノベーションにつなげる意味で、非常に価値があると感じています。

― 研究の楽しさや苦労を教えてください。

信頼できるシミュレーションツールの構築には、非常に困難が伴います。コントロールしたり排除しなければならない不確定要因が数多く存在するからです。これは大変難しい課題ですが、同時に非常に興味深い挑戦でもあり、私たちは成功と、新しい技術を生み出すために懸命の努力を重ねています。これらの課題にチャレンジすることは、実験と数値の研究者の密接な協力につながりますし、国際的航空学術界と産業界の共同相乗効果の推進にもなります。この前例のないグローバルな共同作業は、航空業界すべてのメンバーが成長できるエキサイティングな機会にもなっています。

― 今後の目標を教えてください。

JAXAの一員になって以来、積極的に、国内外の大学や国立研究機関との共同研究プロジェクトを立ち上げ、参加するようにしています。例えば、JAXAが参加する国際航空フォーラム(IFAR)のテクニカルワーキンググループの一員として、CFDにディープラーニングを活用するための国際共同研究に携わっています。世界中の研究者や研究機関とJAXAとの連携をサポートしながら、関係性を強化していくことが、今後の私の大きな目標のひとつです。

― JAXA航空技術部門を目指す後輩にメッセージをお願いします

航空技術部門は、航空科学の第一線で働き、大きな挑戦をしたいと願う若手研究者にとって最適な職場です。日本最大級クラスターの風洞、秀逸な飛行テスト設備、パワフルなスーパーコンピューターが使えます。世界で著名な専門家とインパクトのある仕事ができるほか、国内外の大学や企業と高度な研究開発活動ができる可能性に満ちています。


私の好きな場所

井の頭公園は東京で私が好きな場所のひとつです。池と高い木立はゴージャスで、都会の喧騒を忘れさせてくれます。春には優雅で繊細な桜の花を愛でることができ、友人たちと花見を楽しくむこともできます。池の端には弁財天のお寺が佇み、私はストレス解消やリラックスのためにこの穏やかな場所でよくランニングや散歩をします。また、宮崎駿監督ファンにとって井の頭公園はジブリ美術館の本拠地で、私も何度も行きました。井の頭公園は海外から友達が来るときに「訪ねるべき場所リスト」のトップに常に君臨し、行った誰もがその魅力に恋に落ちてしまうのです!

2022年5月更新


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