庄司 烈

航空環境適合イノベーションハブ 環境適合エンジン技術チーム 研究開発員
2012年3月早稲田大学基幹理工学部機械科学・航空学科卒業、2017年6月カリフォルニア大学ロサンゼルス校Department of Mechanical and Aerospace Engineering博士課程修了、同校での博士研究員を経て、2018年4月宇宙航空研究開発機構入社。
大学では航空宇宙システム推進系で見られるJet in crossflowという流れ場の不安定性や混合促進メカニズムの解明に従事。
入社後は、航空機エンジン燃焼器で発生する燃焼振動に関する研究を行っている。

ハイリスクな研究開発に対し、失敗を許容し、常に挑戦し続ける組織文化の醸成を目指して

― 現在の研究内容について教えてください。

航空機エンジンの「燃焼器」と呼ばれる構成要素に関する研究開発に従事しています。燃焼器は、供給される燃料を燃やすことによってエンジンを駆動し、航空機を推進させるためのエネルギーを得る重要な役割を担っている、航空機エンジンの「心臓部」です。この燃焼器のさらなる性能向上が、より安全で環境に優しい航空機を実現するための重要な鍵となるのですが、そのためには克服しなくてはならない挑戦的課題が数多く存在します。その中でも私は「燃焼振動」と呼ばれる、火炎がダイナミックな挙動を示す現象に注目しています。燃焼振動は、燃焼器内での強い圧力の振動を伴うため、最悪の場合、エンジンの損傷に直結する可能性があります。しかし、この燃焼振動を航空機の運用中に事前検知・回避する実用的な手法はいまだ確立されていないばかりか、燃焼振動が発生する根本的な物理メカニズムについても未知な部分が多々残されているのが現状です。

私は、この燃焼振動が発生する物理的メカニズムを解明することを目的とした基盤研究と、機械学習等の手法を応用した燃焼振動の事前検知手法の開発という、比較的実機に近い研究開発業務の両輪を軸に燃焼器の研究開発に従事しています。それに加え、燃焼由来で発生する二酸化炭素をゼロにできることから近年注目されている水素エンジンに関する基礎研究も進めています。水素エンジンは、従来の炭化水素系燃料と異なる水素燃料を使用することに起因して、より強い燃焼振動や、本来燃焼が起こることが想定されていない領域まで火炎が遡る逆火という現象などの発生が危惧されています。これらは燃焼器の運用中に発生することが望まれない、いわば異常燃焼です。より地球環境に優しい水素航空機の実現を目指し、こうした水素燃焼特有の異常燃焼の現象解明やその回避方法の確立に向けても日夜奮闘中です。

― JAXA航空技術部門を目指したきっかけ、理由を教えてください。

様々ありますが、自分のやりたい研究開発を行う最高の環境が整っていることが最大の理由です。JAXA航空技術部門は全職員がそれぞれ高い専門性を備えたプロフェッショナル集団です。その専門家たちと切磋琢磨しながら研究開発を行うことで、自分の想像を超える成果を創出できると考えます。また、基礎レベルから実機条件に至るまでの幅広い条件において、最先端の計測機器を用いて実験を行うことができる設備環境も、実験屋として非常に魅力的でした。このような環境は、国内であればJAXA航空技術部門以外ではなかなかお目にかかれないと思いますし、世界的に見ても大変貴重です。
これに加えて、個々の研究者の個性を尊重し、ボトムアップで研究開発を進められる組織文化も、私がJAXA航空技術部門を目指す後押しになりました。

― 今後の目標を教えてください。

私の今後の目標は大きく3つあります。

  1. 航空機エンジン燃焼器、その中でも特に燃焼振動の研究において世界を牽引し、燃焼振動の発生メカニズムを物理的に解明することです。これは一研究者としての最大の夢なので、人生を懸けて進めたいです。基礎研究は私の人生です!また、目標とは異なりますが、基礎研究を究極に研ぎすまし、その成果を実機に応用するという「入口から出口」を目指す点は常に意識して仕事をしています。
  2. 短・中期で結果の出にくいハイリスクな研究開発に対しても、失敗を許容し、常に挑戦し続ける組織文化を醸成したいです。JAXAでは、年単位の比較的短いスパンで成果を求める、また、極端に失敗を恐れる傾向があります。しかし、短・中期的に成果は出にくいが、20~30年後という長期的スパンでは世界に多大なインパクトを与える成果を創出できるハイリスクな萌芽研究こそ、メーカーや大学が取り組みづらく、JAXAが最優先して取り組むべき課題だと考えています。私が考えるJAXAの存在価値はそこにあります。世界のあり方を変える1つの成功のために何千もの失敗を積み重ねられる、それを許容できる挑戦的な組織文化を醸成していきたいです。その先には、職員全員が輝いて、ワクワクしながら研究開発ができるより素晴らしい組織が待っていると信じています。
  3. JAXA航空技術部門を、国民の皆様が熱狂できる「夢」を創り出す組織にしたいです。我々は世界中の人々の生活に密接する「航空機」の技術に関する研究開発に日夜励んでいます。これは、NASAのアポロ計画やJAXAのはやぶさなどに比べると注目度は高くないかもしれませんが、皆様の住むこの世界のあり方を着実に変革し続けています。私は、今後JAXA航空技術部門がさらに挑戦的なミッションに挑み続けることで、皆様により大きな夢や希望を持っていただくことが使命の一つだと考えます。国民の皆様と我々職員が一緒にワクワク、ドキドキできるような研究開発を進められるよう精進いたします。

― JAXA航空技術部門を目指す後輩にメッセージをお願いします

JAXA航空技術部門は、自分次第でおおよそどんなやりたいことや挑戦したいことも叶えてくれる、あるいはサポートしてくれる自由度の高い組織です。また、職員も皆個性的で楽しい人ばかりです。挑戦的な仕事を遂行するためには最高の組織であり、私はJAXA航空技術部門が大好きです。
航空を通じて世界を変えたいという熱い想いをお持ちの方は是非JAXA航空技術部門を目指してください!我々の夢見る明日を目指して皆さんと共闘できる日を楽しみにしています!


jaxa自慢

JAXAは自分次第でやりたいことが何でもでき、多様なキャリアパスをサポートしてくれる自由度の高い組織です。研究一筋でいきたい人、マネジメントをしたい人、縁の下で着実に研究開発をサポートしたい人、分野横断的にイノベーションを進めたい人、色々な方が共存している、まさにダイバーシティを体現している組織だと自負しています。これだけ自由に動き回れる組織は珍しいと思います。

最新の若手研究者インタビュー

記事一覧