調布のハンガーで初めてMuPAL-εと対面したのは2003年10月10日でした。あれから約3年半が経ち、今回は4回目のフィールド試験です。
JAXA宇宙科学研究本部(http://www.isas.jaxa.jp)では5年前から月惑星探査機に搭載する着陸レーダを開発しています。着陸レーダは探査機が惑星表面に降りるために必要な航法センサの一つで、マイクロ波を使って探査機の速度と高度を測定するセンサです。
レーダ方式を検討するところから始まった開発も、BBM(Bread Board Model)を試作して標準的な平面や自然地形での動作試験が必要な段階となり、十分な距離を飛んで比較的惑星表面の状態に近い自然地形を対象としてレーダを評価するために、
- 直線で5km以上の距離がとれること
- 直線に沿った幅約2km以内に道路以外の人工建造物ができるだけないこと
- 地表はできるだけ平らであること
- 試験に際して積雪がないこと
という条件を満たす場所が必要になってきました(もちろん国内で)。
衛星写真を北海道から南下しつつ見て、「ここは5kmの直線が取れるかも!」と衛星写真を地図に切り替えると「あぁ、人工建造物だらけ...」。それを何回も繰り返しながら、たどり着いたのが阿蘇外輪山に広がる牧場地帯でした。2万5千分の1の地形図で見ると小さな建物は点在するのですが、それを避けて定規をあてると、条件に合った2本の直線コースが取れることがわかりました。
そのようなわけで、拠点となる空港から実験候補地まで片道約15分、空港に隣接する形で建っている大学の格納庫をお借りすることができるという願ってもない条件も加わり、昨年と今年、阿蘇でのフィールド試験をおこなうことになったのでした。
レーダのフィールド試験では、データを取るためにパイロットのSさんをはじめ、ヘリチーム(ここでは着陸レーダのためにMuPAL-ε の運航にかかわってくださった方々を"ヘリチーム"と呼ばせていただきます)のみなさんにはいくつもの条件が付いた飛行を何度となくお願いしてきました。例えば、対地高度を一定で飛んでほしい、垂直降下をしてほしい、進行方向に対して機首を左斜め45°に向けたまま飛行してほしい、指定した機体姿勢で上昇してほしい、などなど...。そのような要求に、ヘリチームのみなさんはいつでも素晴らしい技術と知恵とチームワークで応えてくださいます。
試験をおこなう候補地を一緒に選定し、こちらの試験内容を理解していただき、飛行内容の詳細を詰め、実際に飛ぶ...その繰り返しの中で、研究本部を超えた信頼関係が築けたのではないかと感じています。
アンテナケースの蓋を開けると、中はこのようになっています。
さて、今回で4回目の、そして熊本では2回目のフィールド試験が3月12日から始まりました。着陸レーダはアンテナ部、高周波部と信号処理部から構成されています。熊本入りして、まずはアンテナを念入りにチェックしました。このアンテナ、アルミケーブルのくるくるした形状やくねくねと入り組んだ配線の感じが"あの"動くお城を連想させるということで、私たちの間ではハ○ルと呼ばれています。
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