宇宙航空研究開発機構

MuPAL-ε ブレード翼端位置計測の予備地上試験

ヘリコプタの上で回っているロータの羽根のことをブレードと呼びます。MH2000の場合、長さ6.1mのブレードが4枚付いています。このブレードは、付け根付近が関節(ヒンジ)のような構造になっており、上方向に曲がるようになっています。この曲がった角度のことをフラッピング角と呼びます。フラッピング角は飛行中にパイロットの操縦によって変化し、それによって機体に加わる力の向きが変わるので、ヘリコプタは自由に動き回ったり風に逆らって空中で静止(ホバリング)したりすることができます。MuPAL-εは、ヒンジの中に特殊なセンサが入っており、飛行中のフラッピング角を計測できるようになっています。

JAXAでは、ヘリコプタのBVI騒音に関する研究を進めています(2007年4月9日実験用航空機レポート参照)。このBVI騒音は、ブレードの翼端から生じる空気の渦と後続のブレードがぶつかることによって発生します。BVI騒音の発生メカニズムを詳しく解明するためには、ブレードの翼端が通る場所を正確に(数cmの精度で)知ることが必要になります。上の図を見ると、もしフラッピング角を正確に計測することができれば翼端の位置も計算できるように思えますが、例えば翼端の位置を1cmの精度で知ろうと思うと、フラッピング角を0.1度の精度で測る必要があります。今使っているセンサだけではそこまでの精度は見込めません。また、ブレードは空気力や遠心力の影響によってヒンジ部分以外でも曲がる(弾性変形と言います)ため、実際にはフラッピング角をいくら精度良く測っても翼端の位置を正確に求めることはできません。

そこで、機内からカメラでブレードを撮影することによって、翼端の位置を直接計測できないかどうか検討しています。今回の試験は、まず地上でヘリコプタのロータを回して撮影し、カメラの写り具合を確認することが目的です。

4本のブレードが区別できるように、翼端近くに数字が書いてある小さなプレートを装着します。

ヘリコプタのブレードは、非常に速いスピードで回っています。翼端部分の速度は、秒速200m(マッハ0.6!)にもなります。このため、普通のカメラでは撮影することができません。「高速度カメラ」という1秒間に数千コマを撮影できる特殊な機材を使います。ぶれずに撮影するためには、シャッタースピードを100マイクロ秒(10000分の1秒)以下程度にする必要があります。シャッタースピードが速いと取り込まれる光の量が少なくなるので、撮影した画像は暗くなってしまいます。幸いこの日は梅雨の晴れ間で天気が良く、何とかうまく撮影することができました。


キャビン内に「高速度カメラ」を設置した様子。このカメラ、普段はMH2000の落下衝撃実験のような研究で使われています。1秒間の撮影データが4GB(DVD1枚分!)にもなります。今回は地上試験なので三脚を使って固定しました。飛行試験を実施する際には専用の取り付け部品を製作する予定です。



地上での試験は飛行場ではなくJAXAの敷地内で行います。普通のカメラで撮影すると回っているブレードはほとんど写っていません。


高速度カメラで撮影した画像の例。左はシャッタースピード30マイクロ秒で撮影したオリジナルデータ。さすがに光量不足で真っ暗に。「実験失敗か」と心配しましたが、実験終了後に画像ソフトで処理してみると右の図のようにブレードの姿が浮かび上がってきました。高速で回転するブレードが見事に止まって見えます。これだけ写れば位置を正確に解析することができそうです。

今回の地上試験により、このカメラを使って翼端の位置を正確に計測できることが確認できました。ただし、まだ問題があります。カメラはキャビンの床に固定しますが、ヘリコプタの胴体は軽量化のため意外に柔軟な構造になっており、飛行中に変形する可能性があります。地上に置いてある時は自重を下から支える状態になりますが、飛行中はロータの空気力によって上から吊り下げられる状態になります。この2つの状態の間で胴体が変形すると、ブレードに対するカメラの画角が変わってしまい、撮影した画像から翼端の位置を正確に計測できなくなってしまいます。この問題を確認するため、機体をクレーンで吊って胴体の変形具合を調べる試験を予定しています。変形量が許容範囲以内であることが確認されれば、飛行試験に移行する予定です。

追伸:2006.10.05日付の実験用航空機レポートでお伝えした「係留気球を用いたMuPAL-εの騒音計測試験」の様子が「JAXAビデオアーカイブ」に登録されました。こちらの方も併せてご覧いただければ幸いです。
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