宇宙航空研究開発機構

パイロット視点映像撮影@クイーンエア

一風変わった写真をご覧に入れたいと思います。

これは、特殊なカメラを使ってパイロットの周囲全体の状況を撮影して、一枚の画像にまとめたものです。本来なら球状の画像を、無理に一枚の平面に展開しているため、とてもゆがんでしまっていますが、パイロット席に座ると、これだけの景色を見ることができるわけです。

パイロットと話をしていると、「こういう操縦はとても難しい」「ああいう操縦はそこまで難しくない」といった話がたくさん出てきます。たとえばヘリコプタは、空中で停まる"ホバリング"ができます。このホバリング、地上付近ではなく、高い高度や海上でホバリングする場合は操縦が難しいと言われています(2006年11月21日実験用航空機レポート参照)。
その理由は、高度が低い場合は周りに建物や木などの目標物がたくさんあり、それらを手がかりにして機体の動きを把握しやすく、高い精度のホバリングが簡単にできる、と説明されています。高度が高い場合や海の上ではこういった手がかりが少ないため難しくなる、というわけです。それでは、パイロットはこういった手がかり=視覚情報をどのように使って操縦しているのでしょうか?
たとえば飛行機が着陸するとき、接地直前のフレアと呼ばれる操作は、計器の数値ではなく、"滑走路の見え方"などの機外の視覚情報に大きく頼っています。こういった視覚情報とパイロットの操縦との関係を明らかにするための基礎データ集めが、今回のフライトの目的です。

基礎データとは、パイロットを中心とした全周囲の映像情報と、機体の操舵・運動情報です。JAXAの実験用航空機では、機体の操舵・運動情報を全て記録することができるので、残る問題は、パイロットの周囲の映像をどうやって記録するか、ということになります。
今回はこんなカメラを使いました。周囲に5個、上面に1個、合計6個のカメラが配置されていて、重さは1kgほどあります。水平面から上の領域を同時に撮影し、その撮影データをノートパソコンに保存することができます。
機体によって窓の形状や大きさは違い、そもそもコックピットの形状も異なり、パイロットからの見え方も異なります。そこで、複数の機体、クイーンエアとMuPAL-εとを使って撮影フライトを行うことになりました。

カメラを含めて今回の実験装置は初めて機体に搭載するものなので、フライトの前に電磁干渉(EMI:Electro-magnetic Interference)の有無を検査します。機体側のシステム(航法機材、計測機材など)を全て起動した後、実験用設備の電源を入れて、航法用機材や計測機材、そして無線やエンジンなどに影響がでないかどうかをチェックします。問題がなければ、フライトが可能となります。幸いにして今回構築したシステムでは問題は発生せず、どちらの機体でも飛行が可能であることが確認できました。

最初のフライトでは水平線を明確に撮影するため、海上に進出することになりました。機体はクイーンエアを使います。通常、パイロットは、計器だけでなく、水平線を見ながら自機の傾きを把握して操縦します。そのため、手動での操縦の際には水平線がとても重要になります。このフライトでは、海上へ進出した後、高度変更や旋回などの操作を実施して、1時間ほどで帰投しました。


種々の都合により、カメラはこのようにパイロットがフライト中ずっと支えることになりました...


普通の実験では、コックピットからは後ろは見えません。だから時々気を抜くこともあるのですが、今回使っているのは全周囲撮影可能なカメラです。パイロットが写るのはもちろんのこと、よく見ると後ろの研究員まで写ってしまっています。


撮影の条件に合わせて随時カメラの設定を調整しないといけないので、(いつものことですが)研究員はノートパソコンの画面とにらめっこです。

クイーンエアでの撮影フライトは終了です。次回はMuPAL-εでの撮影を実施します。

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