【開催報告】JAXA航空シンポジウム2024

2024年10月18日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、航空・宇宙の日本最大級の総合展示会である『2024年国際航空宇宙展(JA2024)』の併催イベントとして、『JAXA航空シンポジウム2024』を開催しました。

JAXAの第4期中長期計画の振り返り、その成果の一部として、 「En-Coreプロジェクト」、 「航空機DX技術」、 「航空システム研究」 についてご紹介するとともに、 第5期中長期期間の研究開発構想も紹介いたしました。さらに、アメリカ航空宇宙局(NASA)とボーイング社による特別講演では、JAXAとの研究協力を含め最新の研究開発状況をご紹介いただきました。これを受けて、JAXAからは新たな超音速プロジェクト「Re-BooT」をご紹介しました。

産官学の航空業界関係者をはじめさまざまな分野の方々が集まり、前回を上回るおよそ300人の来場者で会場は埋め尽くされました。会場にはメモをとりながら熱心に講演を聞く人たちの姿も見られ、航空業界の新しい知見やインスピレーションが得られる貴重な時間となりました。

会場へお越しいただいた多くの皆様に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。


JAXA航空シンポジウム2024 会場の様子

講演

開会の挨拶の後、「第4期中長期計画を振り返って」(2018年度~2024年度)の講演に続いて、アメリカ航空宇宙局(NASA)とボーイング社からご講演いただきました。

第4期中長期計画を振り返って

第4期中長期計画を振り返って

渡辺 重哉
JAXA理事補佐/航空技術部門長代理

特別講演
Quesst: NASA’s Mission for Quiet Supersonic Flight

キャロル・キャロル

キャロル・キャロル
アメリカ航空宇宙局(NASA)
航空研究ミッション局 デピュティ・アソシエート・ディレクター

騒音を抑えた超音速ジェット機の開発を進めるNASAは、間もなく低騒音実証機X-59の米試験空域での初飛行を行う。航空機が超音速で飛行すると衝撃波が生じ、それが地上に伝わると衝撃性騒音の「ソニックブーム」として観測される。現在禁止されている民間航空機による超音速飛行を可能にするには、ソニックブームを大幅に低減化した機体の開発と「静かな騒音」に対する広範な住民の反応を科学的データとして収集することが必須となっている。
NASAは、風洞実験やCFD解析のデータなどをJAXAやボーイングと共有してソニックブームを低減化した機体設計の検証を共同で行う。地上で聞こえる騒音を「車のドアが閉まる音」程度まで低減することを目標にしている。2027年度から大都市上空で実証機を飛ばし、一般市民がどう感じるかについて長期・大規模なデータのサンプリングを行う。その結果は規制当局に提供する

※CFD解析:Computational Fluid Dynamics(数値流体力学)による流体解析

特別講演(オンライン)
Global Technology & Innovation at Boeing

ディラン・ジョーンズ

ディラン・ジョーンズ
ボーイング・リサーチ・アンド・テクノロジー・ジャパン/
ボーイング・コリア・エンジニアリング・アンド・テクノロジーセンター エグゼクティブディレクター

ボーイングは2050年までに航空宇宙産業の脱炭素化を実現するため、主に4つの戦略を柱に技術革新を進める。 ①新規航空機への更新、②運航効率の改善、③代替燃料SAFやそれを通じた再生可能エネルギーの活用、ならびに電動化や水素技術④先進航空機技術の導入だ。2024年4月に名古屋に開設した日本の研究開発拠点では、製造技術、設計で使うデジタルツールやSAF、複合材およびそのリサイクル、ロボティクス、水素燃料電池システムなどの研究を進める。

最近の技術のトレンドでは、電動化や水素燃料などが注目される。ただ、航空機の寿命は長く、例えば2025年に納入予定の787型機の運航は2050年近くまで続く。脱炭素に向けて、さまざまなエネルギー利用のシナリオがあるなかで短期的にはSAFが鍵になるとみており、ボーイングは引き続き日本とのパートナーシップに重点を置き、次世代機に向けて更に関係性を強化したいと考えている。

※SAF:Sustainable aviation fuel(持続可能な航空燃料)


アメリカ航空宇宙局(NASA)とボーイング社による2つの特別講演を受けて、JAXAによる「Re-BooTプロジェクト」の講演を行いました。

ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証(Re-BooT)

牧野 好和

牧野 好和
JAXA航空技術部門
ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証(Re-BooT)プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ

JAXAは、超音速航空機によって発生する衝撃性騒音(ソニックブーム)を幅広い範囲で低減するロバスト低ブーム設計技術を開発し、ボーイングが設計したコンセプト機に適用して飛行実証を行う「Re-BooT」プロジェクトを進めている。また、同設計技術を適用した想定実機をボーイングと共同で設計しICAOに提示する計画である。
Re-BooTプロジェクトチームは、飛行経路の直下(オントラック)だけでなく、経路の側方位置(オフトラック)でも、また巡航時(オンデザイン)だけでなく航空機が加速上昇する飛行条件(オフデザイン)でも騒音を低減する技術を研究しており、超音速機が飛んだ時に、その衝撃波が地表に到達する領域(ブームカーペット)全体で騒音を低減することを目指している。
米国ブーム社など複数の新興企業が超音速旅客機の開発を進めており、ICAOはRe-BooTやNASAのQuesstプロジェクトなどの実証実験のデータを参考に、2030年代初頭には「超音速機騒音基準」を策定するものとみられる。

※ICAO:国際民間航空機関(国連の専門機関のひとつ)
※Quesst:低ソニックブーム実証機X-59による飛行試験を含むNASAのプロジェクト


後半は、JAXAの第4期中長期計画の主要なプロジェクトの成果である「En-Coreプロジェクト」、「航空機DX技術」、「航空システム研究」に関する講演が行われました。

En-Coreプロジェクト(コアエンジン技術実証)の狙いと成果

山根 敬

山根 敬
JAXA航空技術部門
コアエンジン技術実証(En-Core)プロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ

「コアエンジン」と呼ばれるジェットエンジンの高圧部は、現在のターボファンエンジンのみならず、将来の超音速機エンジンなどにおいても主要な駆動源であり、電動航空機の発電機としても重要な役割を担う。En-Coreプロジェクトでは、コアエンジンの中でも高温となるタービンと燃焼器に対して、現行エンジンの最高性能に匹敵する断熱効率をもつタービンと、世界で最もNOxの排出が少ない燃焼器の実用化を目指している。タービンでは、CMC(高温耐熱複合材)素材を用いた静翼設計技術と高効率メタル動翼技術を開発し、空力損失と冷却空気による損失を低減する。すでに実証実験は終わり、プロジェクトの目標値を大きく上回った。燃焼器では、燃料とより多くの空気を混ぜて局所的な高温領域を減らし、NOxの発生を抑制する「超低NOxリーンバーン燃焼器」を開発、最終試験の段階に入っている。

航空機DX技術実証(XANADU)

溝渕 泰寛

溝渕 泰寛
JAXA航空技術部門
航空機DX技術実証(XANADU)プリプロジェクトチーム長

ますます複雑になる航空機システムの開発において、日本企業が存在感を示すには、デジタル変革(DX)の波に乗り遅れるわけにはいかない。2023年に始まったNEDOの受託事業「Kプログラム(経済安全保障重要技術育成プログラム)」では、まさにデジタル技術によって航空機の開発製造プロセスの高度化を進めている。これに参画するJAXAは、当プログラムでの成果を最大化するための独自の活動を加えたプロジェクト「XANADU(ザナドゥ:Cross(X)-functional Aviation Network for Advanced Design and Upgrades)」を立ち上げ、設計および認証プロセスの変革とDXプラットフォーム「SACRA(サクラ)」の構築に取り組んでいる。プロジェクトの成果を航空機ライフサイクルDXコンソーシアムのメンバーと共有することで、日本企業が将来旅客機の共同開発に参入する足掛かりとしたい。

講演資料

航空システムの研究

二宮 哲次郎

二宮 哲次郎
JAXA航空技術部門
航空システム研究ユニット長

ドローンなどの新たな航空機の登場、新素材やAI(人工知能)といった新技術の台頭によって、航空分野は多くの新要素が加わり大きな変革を迫られている。今後の安全運用には、要素ごとではなく航空システム全体を見据えた研究開発が重要である。JAXAでは2021年より、実現したい未来社会像を予測し、その中で航空分野にできることを整理してきた。特に重要だと予測された「環境負荷低減」「災害被害低減」「利便性向上」については、それらのニーズに答える航空システムの具体的な検討も行った。未来予測から航空分野のグランドデザインを描いたことで、社会的ニーズや求められる技術レベルが明確になり、航空システム全体の効率的な研究開発につながっている。

講演資料

来年度から始まる「第5期中長期計画」の研究開発構想についての講演があり、閉会の挨拶で2024年の航空シンポジウムは予定したプログラムの幕を下ろしました。

第5期中長期期間の研究開発構想

村山 光宏

村山 光宏
JAXA航空技術部門
第5期中長期計画検討ワーキンググループ長



最後に、来場者にお話を聞きました。

来場者からのコメント

  • 最新の技術がどうなるのか、今後業界がどのように進んでいくのかを知りたくて来ました。私が勤務する航空科学博物館は、過去の試験機の展示などが中心ですが、最新のものは企画展でパネル展示をしているので、今日聞いた内容をいつか企画展に反映できたらいいなと思っています。

    60代男性航空科学博物館
  • 航空機エンジン関連の営業職をしており、転職して2年目です。以前は電車の車両関係の仕事をしていました。コアエンジンに興味があります。仕事をするにあたり、どうしても最新のエンジンのことを知りたくて、今年初めてシンポジウムに参加しました。

    30代男性航空製造業
  • ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証の話を聞きに来ました。直接仕事に関係している内容ではありませんが、興味があったので…。実機を作るにあたって、今後、どのように国内メーカーに担当を分配していくのか、またどのくらいの規模で世界のメーカーを巻き込んでいくのか、興味が湧きました。

    40代男性航空製造業
  • 宇宙に興味があり、母と主催イベントの宇宙展の展示を見に来ましたが、このシンポジウムも勉強になればいいなと思って参加しました。SDGsがボーイング社でも実施されていると聞いて、そういう時代なんだなあと思いました。

    10代女性
  • 一緒に来た娘が、講演を聞いてたくさん疑問をもったようで、楽しそうにしていましたので、来てよかったなと思います。全く聞いたことがないこれからの航空業界の話が聞けて、新しい知識を得ることができました。

    60代女性
  • 現役の時は、超音速風洞で計測の仕事をしてきたので、風洞の実験の話を興味深く聞いていました。昔と比べて計算機は格段に進んでいて、スピードがまったく桁違いですね。最新の話が聞けて非常に良かったです。

    70代男性
  • 僕たち3人は、宇宙か航空に関連することを仕事にしたいと思っていて、今日は勉強に来ました。私は、航空産業の現状と将来ビジョンを知ることができたらいいなと思っています。前半は、超音速機の話を聞けて満足です。後半も期待しています。

    大学生(専門:空力) 男性・女性
  • ある企業の先端技術研究所で、成層圏に空飛ぶ基地局を作るために、大型の無人航空機の開発をしています。中長期計画の話の中で、多種多様な運航統合管理技術や高密度運航管理技術の話があり、まさに私の仕事に関係があるなと思いました。期待通りの満足度です。

    30代女性
  • インターナショナルな最先端の話を聞きに来ました。仕事も関係していますし、航空機も好きなので…。最高ですね。満足度はとても高いです。

    60代男性エンジニア

「2024国際航空宇宙展(JA2024)」 JAXAブース展示

「2024国際航空宇宙展(JA2024)」が、東京ビッグサイトの西展示場で10月16日(水)から19日(土)までの4日間開催されました。
JAXAはさまざまな衛星に関するパネルの展示をはじめ、Re-BooT(ロバスト低ブーム超音速機設計技術実証)、MEGAWATT(航空機用MW級電動ハイブリッド推進システムの技術実証)、航空機バリアフリートイレのモックアップに関する展示を行いました。
多くの方々に関心を寄せていただきました。

JAXAブース展示
JAXAブース展示
JAXAブース展示
JAXAブース展示
2024年12月6日更新