小型高出力コアエンジンのための先進燃焼技術

航空機用エンジンに対する環境基準は徐々に厳しくなっており、これに対応するための技術開発が求められています。ジェットエンジンのバイパス比を大きくし燃費を削減するには、小型のコアエンジンで大きなファン駆動する必要があります。コアエンジンの小型高出力化のために、燃焼器を高圧高温化することが考えられています。そのためには、高圧高温に対応した低NOx(窒素酸化物)技術がキーとなります。
JAXAではNOx排出量削減のために効果的な希薄予混合燃焼方式による燃焼器を研究してきました。希薄予混合燃焼方式では、燃料と空気の混合比を調整することで、NOx排出を低レベルに抑えることが可能になります。しかし、一方で、希薄予混合燃焼器では、振動燃焼(燃焼室内で共鳴する強い圧力振動)や逆火(混合室まで火炎がさかのぼる現象)のような燃焼不安定性の発生が大きな問題となっており、低NOx燃焼の実現には、安定な燃焼の実現が必要不可欠な要素となっています。先進燃焼技術、燃焼安定化技術、燃焼計測技術という3つの基盤技術の観点から相補的にアプローチすることによって、このような問題を解決し、次世代ジェットエンジンの基盤技術として利用されることを目指します。
またこの研究成果を踏まえて、将来はより高圧条件(40気圧程度)への適用やマルチセクター・アニュラー燃焼器への適用、発電用も含めたエンジンメーカー燃焼器開発への技術展開等に発展させていく計画です。

空気流量配分制御技術-流体素子による気流微粒化燃料ノズルの空気流量配分制御

航空機用ジェットエンジンなどのガスタービンからのNOx排出量を低減するために、希薄予混合燃焼方式は有望な方法の一つと考えられています。しかし、予混合燃焼は拡散燃焼と比較して、安定に燃焼する当量比範囲が狭く、燃焼効率の低下や振動燃焼の発生を招きやすいという課題があります。広いエンジンの作動範囲にわたって安定な燃焼を実現するために、安定な拡散燃焼を行うパイロットバーナーと、希薄予混合で低NOx燃焼を行うメインバーナーを組み合わせたステージング型燃料ノズルの研究開発が行われており、産業用ガスタービンではすでに実用化されています。ステージング型燃料ノズルでは、負荷に応じて各バーナーに供給される燃料の流量配分を調節することにより、低NOx性と燃焼安定性を両立させています。また、産業用ガスタービンでは燃料流量配分の制御だけではなく、燃焼器の尾筒部にバイパス流路を設けたり、一部のバーナーに空気流量を制限する機構を設けたりして、空気流量配分を制御し燃焼領域の空燃比を適正範囲に収めることが行われています。しかし、航空機用ジェットエンジンの燃焼器では、このような空気流量の制御機構が組み込まれた例はありません。
空気流量の制御機構は、燃焼用空気の流路である高温高圧の場に設けなければならないので、厳しい環境において動作することが必要であり、この点が空気流路の外部に制御機構を設けることができる燃料流量の制御機構とは異なっています。航空機用ジェットエンジン燃焼器で空気流量制御を行うには、制御機構が、この厳しい環境で動作し、信頼性が高いこと、また、小型軽量であることが必要です。これらの点を考慮し、制御機構として流体素子を用いることが試みられています。流体素子は燃焼用空気の流路中に機械的な可動部がなく単純な構造なので、厳しい環境においても信頼性の高い機構であると考えられています。
推進システム研究グループでは、流体素子により気流微粒化燃料ノズル内の空気の流れの制御を行う研究を進めており、水流試験による流れ場の可視化計測(PIV)、及び大気圧燃焼試験により、流れ場が変化することと燃焼状態が変化することを確認しています。

流体素子による気流微粒化燃料ノズル空気流量配分制御のコンセプト

燃焼計測技術-レーザー誘起プラズマ分光分析(LIPS)法による局所当量比計測

図1: レーザー誘起プラズマ分光分析(LIPS)システム


図2: メタン-空気混合ガスにおける分光スペクトル
□:当量比=0.52、-:当量比=0.92


図3: インジェクター(上から見た写真、左)とバーナー組み込み時の模式図(右)


図4: 二重円管インジェクタ後流における局所当量比の半径方向分布
10mm下流位置、□35mm下流位置

レーザー誘起プラズマ分光分析(LIPS)法では、パルスレーザー光をレンズで集束させてプラズマを発生させ、プラズマが冷却する過程で発する光のスペクトル分析を行うことで、物質の元素組成を調べます。LIPS法は、これまで、固体試料の元素分析に用いられることが多かったのですが、近年、ガス組成分析への適用が注目され始めています。
JAXAでは、LIPS法を用いて、航空機エンジン燃焼器における燃料と空気の混合度(当量比)を計測する研究を進めています。図1に示したのが、LIPS計測システムです。レーザー誘起プラズマを発生させる装置と受光及び分光分析のための装置から構成されます。図2に示したのは、2つの異なる当量比の混合ガスについて計測された分光スペクトルの例です。元素の種類やエネルギー緩和の過程によって発光波長が異なります。当量比が増加すると水素原子からの発光に対応する波長のピークが大きくなることが分かります。これは燃料であるメタン(CH4)の割合の増加によるものです。このような性質を利用して、エンジン燃焼器内部の当量比分布の計測を行います。一例として、二重円管スリットによる燃料インジェクタ(図3)から噴射されたメタン燃料と周囲空気流との混合過程についての計測結果を図3に示します。バーナー下流方向2つの位置における半径方向への局所当量比分布です。バーナーから10mm下流位置では、中心に燃料は存在せずに、半径=±15mm位置付近にピークを持つような分布を示しています。これに対して、バーナーから35mm下流の位置では、中心に燃料が存在することやピーク位置が外側に広がっている様子が観察され、流れの発達に伴って燃料と空気の混合も進んでいることが分かります。
LIPS法は、計測装置のコンパクト化が図れることや光学系設定が比較的容易にできるという利点を持っています。このメリットから、計測が困難な高温高圧条件におけるジェットエンジン内部の計測やセンサーとしての応用が期待されています。

燃焼不安定検知技術

従来はあらかじめ決められていた燃焼器の運転範囲を、新しい燃焼不安定検知技術の計測値を用いてリアルタイムに決めることで、従来安全のために設けられていたマージンを削減し、運転範囲を拡大することにより、性能の向上が期待できます。
これまでの研究により、燃焼振動が発生する1秒前に検知できているが、さらにあらゆる原因で発生する燃焼不安定事象の検知にも適用できることを目指しています。