パイロット昇格訓練の成長過程の数理モデル化
パイロットの訓練や運航判断は、人の経験や状況認識に大きく依存しています。
JAXAでは航空会社との共同研究を通して、訓練過程で得られるデータを活用し、パイロットの学習・判断・行動を統計と数学の知見を用いたモデルで表現する研究を進めています。
この研究は、人間の成長を科学的に理解することで、訓練や教育の効率化、安全性の向上を目指すものです。将来的には、パイロットに留まらず高度な技能を要する職業の方の訓練・教育や、AIと人間が協調する“Human-AI Teaming”の実現にもつながる基盤研究と位置づけています。
背景・目的
航空機運航では、自動化技術が進化しても、最終判断を行うのは人間です。 これまで訓練は、教官の経験や感覚に基づいて行われてきましたが、「どの段階で技能が伸びるのか」「どの要素が判断に影響しているのか」といった定量的な理解は十分ではありませんでした。 また、訓練過程は訓練時間をベースに技術的な技量を重視した課程から状況把握能力などの非技術的な能力を含む行動特性(Competencyと呼ばれる)に着目したものに移行しており、その熟達を見極めることが難しくなってきています。 JAXAは、数理統計学の知見とヒューマンファクター研究で蓄積してきた知見を活かし、人の成長や判断を数理的に理解することで、安全で効率的な訓練体系の確立を目指しています。
そのために、次の4つを目的に研究を行います
- 訓練過程における技能・判断の成長パターンを定量的にモデル化
- 行動・認知データを分析し、成長の停滞や特徴を早期に把握
- データに基づく訓練支援・教育評価の仕組みを構築
- 将来的には他職種(航空管制官・宇宙飛行士など)への展開を視野に入れる
これまでの成果
JAXAは、日本の航空会社と連携し、パイロット昇格訓練の成長過程を数理モデル化する共同研究を実施しています。
航空会社が運用するCompetency-Based Crew Training(CBCT)に蓄積されたデータを活用し、「改善要」フラグの発生過程を確率モデルとして解析。
訓練初期から後期にかけた成長の進度を定量的に捉えることに成功しました(Probabilistic Modeling of Variation in Pilot Performance During Flight Training)。
この成果により、訓練インストラクターが被訓練者の改善の兆候や訓練効果をいち早く認識し、より効果的な訓練を実施する手助けとなる効果が期待されます(プレスリリース「パイロット訓練のDX促進」)。
今後の展開について、よりモデル精度の向上に加えて、次のような実運用への実装を目指して研究開発を進めていきます。
- 成長モデルをリアルタイムに更新し、訓練支援AIに接続する仕組みを構築
- ドローン操縦・航空管制・宇宙飛行士訓練など、他分野への拡張
- 将来的には、人間とAIが協調して安全を維持する
**Human-AI Teaming(人と機械の協働)**研究へと発展