統合シミュレーション技術
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- 2020年3月31日
- シミュレーションの精度向上を目指した機内騒音の計測試験を実施
コンピュータ上で航空機の性能を予測できる数値シミュレーションは、航空機の開発における強力なツールです。もちろん現在の数値シミュレーションには限界も存在し、航空機開発ではその限界を踏まえた活用が必要です。一方、研究分野においては、この限界を拡げるためのアプローチが求められます。JAXAでは航空機開発に必要な多くの分野にわたる専門的な知見を組み合わせることで数値シミュレーションの利用範囲を拡大する「多分野統合基盤システム(ISSAC:Integrated Simulation System of Aerospace vehiCles)」の研究開発に取り組んでいます。
ISSACが目指すもの
(下)図は飛行速度と荷重(迎角)で示される航空機の飛行可能範囲です。1gが自分の重量と同じ揚力で飛んでいる状態を表わし、旋回飛行では遠心力を支えるために1g以上の揚力を発生し、降下時には揚力が自重よりも小さくなるため1g以下の飛行になります。
飛行領域の中心となる巡航飛行の周辺の領域では、数値シミュレーションは実際の飛行状態をかなり正確に予測できることが分かっています。巡航条件以外の飛行領域はオフ・デザイン(設計条件以外)と呼ばれます。航空機は巡航飛行だけでなく、巡航以外のオフ・デザイン飛行条件でも安全に飛行出来なければなりません。巡航以外の飛行状態では、圧力変動などの非定常現象をはじめとし航空機周りには様々な複雑な現象も発生するため、現在の数値シミュレーションではまだまだ予測が困難です。そのため現実の航空機開発では、縮尺模型を使った風洞試験や実機による飛行試験を繰り返しながら完成度を高めており、そのプロセスに多くの時間とコストが費やされています。
ISSACでは、巡航だけでなく航空機の全飛行領域を予測できる高度な数値シミュレーションの実現を目指します。
数値シミュレーションで全飛行領域を網羅
ISSACでのアプローチ
ISSACの研究開発では、JAXAがこれまでに蓄積してきた研究開発成果が大きな強みとなります。ISSACの実現に向けては、空力・構造・音響・混相流・飛行などの研究分野を跨いだ分野横断的な統合と、数値シミュレーション・風洞試験・飛行試験・データサイエンスなどの課題解決手法の統合を縦糸と横糸として重層的に取り込んだ高度な数値シミュレーションの実現を目指します。
ISSACでの重層的多分野統合アプローチ
ISSACがもたらすもの
ISSACにより、オフ・デザインも含めた航空機の全飛行領域を高精度に予測できるようになれば、縮尺風洞模型や飛行試験機もない航空機開発の初期の段階からコンピュータ上のシミュレーションだけで精度の高い航空機性能の予測が可能となります。これにより航空機設計の完成度をいち早く高め、詳細設計や飛行試験にかかるコストと時間を短縮できます。これが「航空機開発のフロントローディング化」によるメリットになります。
世界の新造旅客機の市場規模は、今後20年間で倍増すると言われています。JAXAの基盤技術を生かしたISSACは、開発プロセスのフロントローディング化を通じて航空機開発を効率化・迅速化・低コスト化し、世界市場における国産航空機の競争力強化・プレゼンス向上に貢献します。
ISSACによる航空機開発のフロントローディング化
ISSACが挑戦する課題
民間の航空機開発を通して浮かび上がった課題や、JAXAが公的研究機関として保有すべき技術、あるいは今後の研究戦略などを踏まえ、ISSACでは重点的に取り組む4項目の重点課題と、複数のエクストラサクセス課題を設定しています。
飛行図
[重点4項目]
- 低速/高速バフェット予測技術
オフ・デザイン飛行条件で、機体振動の原因となる非定常流れの発生条件を予測 - フラッタ予測技術
流れと機体構造が連成して発生する破壊的な振動であるフラッタの発生条件を予測 - 機内/機外騒音予測技術
客室内の静粛性向上や空港周辺の環境負荷低減につながる航空機内外の騒音を予測 - 滑走路の水跳ね予測技術
荒天時の滑走路の水たまりから車輪が跳ね上げた水しぶきが航空機に与える影響を予測
[エクストラサクセス課題]
- 舵効き・動安定予測
- 実機スケール空力予測
- データ科学・モデリングによる比較・抽出技術