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宇宙航空研究開発機構

特集「電動航空機」
特集「電動航空機」

2019年3月27日更新

特別編「さまざまな電動化への取り組み」

これまで4回にわたって電動航空機への取り組みを紹介してきました。今回は特別編として、小型航空機における電動化や、ハイブリッド車や電気自動車が実用化されている自動車分野のパワーエレクトロニクス技術、そして以前から電動化に取り組んでいる船舶分野の専門家の方々に、各分野の電動化へ向けた研究開発の動向を聞きました。

海外の動向にも注目しながら、小型電動航空機の開発を進めたい

麻生茂教授
九州大学工学研究院 航空宇宙工学部門 宇宙システム工学講座 麻生茂教授

JAXAは2030~50年代の実用化を目指して中~大型旅客機を想定したエミッションフリー航空機の研究を行っています。これに対して、小型電動航空機などの研究をしているのが、九州大学工学研究院の麻生茂教授です。

── 日本における小型航空機の電動化への取り組みについて教えてください。

日本では、JAXAが2013~15年にモーターグライダーを改造・電動化し、航空局の飛行試験許可を得た上で、滑走路から離陸して上空を旋回飛行させたのが初めての試みです(航空機用電動推進システム/ハイブリッド推進システム)。これは、新たに開発した電動モーターを使った推進システムが所定の性能を十分に発揮したという点で特筆すべき出来事でした。
小型電動航空機は、近距離での飛行を想定しているので、大きなバッテリーを積む必要がありません。また、短い滑走路があれば着陸できるので、日本のような山間部や離島などが多い国に向いています。私たちはこれまで、電気自動車用に開発されたモーター(120kW、インバーター込み質量98kg)を用いたパワーユニットを構築してセスナ機のエンジンと換装して地上試験を行い、このユニットがガソリンエンジンと同等な加速性能を持つことを実証しました。現在では、他にもさまざまな機関や企業、大学などが小型電動航空機の研究を行っています。


電動モーターに換装したセスナ172P型機の地上走行実験

電動モーターに換装したセスナ172P型機の地上走行実験(画像提供:九州大学)

── 海外の状況はいかがですか。

海外では、欧州のピピストレル社が「Alpha Electra」などの二人乗り電動飛行機をすでに市場に提供しています。エアバスグループは、2015年に「E-FAN 1.0」による英仏海峡横断飛行に世界で初めて成功しました。米国ではワークホース・グループ社の「SureFly」があり、ウーバー社はライドシェアビジネスから発展して空飛ぶ自動車の開発に取り組んでいます。NASAは「X-57」や「GL-10」を開発しており、ボーイング社やベル社なども空飛ぶクルマのコンセプト機を発表しました。中国も開発を進めていて、小型電動航空機の開発は国際的な広がりを見せています。今後、交通手段として小型電動航空機を飛行させるために、技術を標準化することが必須となってきます。その国際標準化の動きには日本も注目していくべきと私は考えています。

── 今後の航空機電動化の動きについてどうお考えですか。

小型電動航空機の研究開発では、日本は欧米に比べて大きく立ち遅れていましたが、2018年、ECLAIRコンソーシアムが立ち上がり、今後の土台ができました。これは大いに評価したいと思います。

自動車分野で培った技術は、航空機電動化にも大いに活用できる

山本真義教授
名古屋大学 未来材料・システム研究所 山本真義教授

自動車分野では、ハイブリッドカーや電気自動車などに電動化の技術がすでに使われています。そこに搭載される、電力の変換や制御などに関わるパワーエレクトロニクス回路は、航空機の電動化においても不可欠です。名古屋大学 未来材料・システム研究所の山本真義教授は、自動車などのパワーエレクトロニクス技術を研究しており、その技術を次世代航空機で使用することも視野に入れています。

── 自動車分野での研究はどのようなものですか。

私は、次世代自動車用・航空機用の電力変換器やモーターにおける高効率化、小型軽量化を目的とした研究を行っています。特に次世代パワー半導体に多く使われる窒化ガリウム(GaN)や炭化シリコン(SiC)を素材として用いることで、インバータ(直流を交流にしたり、モーターの回転数を変える)やDC-DCコンバータ(電圧を変える)といった電力変換器の低損失駆動や高周波駆動を実現し、その性能向上につなげていきます。環境省のプロジェクト*として研究し、実機構築したGaNパワー半導体を用いたDC-DCコンバータでは、電力密度としては世界最高レベルの性能を獲得しました。

*環境省公募「平成26年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業」で採択された「高品質GaN 基板を用いた超高効率GaN パワー・光デバイスの技術開発とその実証」


車載用を想定しGaNパワー半導体を用いたDC-DCコンバータ(画像提供:名古屋大学)

車載用を想定しGaNパワー半導体を用いたDC-DCコンバータ(画像提供:名古屋大学)

── 電気自動車のパワーエレクトロニクス技術を航空機に応用するポイントはどのような点でしょうか。

航空機に応用する際に重要なのは電力密度性能で、5kW/kgという数字が一つの性能基準となっています。2015年にドイツのシーメンス社が、航空機用に重量50kgのモーターで260kWの出力を得られる性能を実現可能な、Halbach配列モーターを発表しました。出力重量比は5kW/kgを超えています。これはパワーエレクトロニクス分野に非常に大きなインパクトを与えました。今後、航空機のシステムとして成立するには、モーター駆動用の電力変換機であるインバータを含めた電力密度性能が必要であり、それらを実現するパワー半導体として、GaNやSiCといった次世代材料とその応用技術に注目が集まっています。

── 日本の航空機電動化についてどうお考えですか。

日本は自動車分野における電動化技術で世界を牽引してきました。今後はそこで培ってきた技術を空へ応用し、航空分野ならではの新しい電動化技術を高めていく必要があると感じています。応用可能な技術を積極的に用いて課題を解決していくことができると期待しています。

航空機電動化で得られた成果は、船舶でも役立てたい

平田宏一系長
海上技術安全研究所 環境・動力系 平田宏一系長

航空機と同様に二酸化炭素(CO2)などの排出量低減に取り組んでいる分野に、船舶があります。船の分野では以前から電動化技術の研究を進めており、海上技術安全研究所の平田宏一氏も水素燃料電池船の実用化に取り組んでいます。

── 船の電動化に関する研究内容を教えてください。

私が研究しているのは、電動推進船のハイブリッド推進システムです。リチウムイオン電池や水素燃料電池などのエネルギーで発電や蓄電した電力を用いて、電動モーターを動かします。すでに模型での試験で推進システムが機能することを確認しており、実際に小型船での実証試験も進めています。
船で新しいエネルギーの利用や次世代船舶の研究開発を行う目的は、温室効果ガス(GHG:GreenHouse Gas)の排出量削減を実現するためです。世界的な動きとして、2050年代にGHG排出量を現在(2010年代)の50%に削減する国際的な目標があり、今世紀中にはオール電化船などのゼロエミッション船で排出量ゼロという、高い目標を世界全体で目指しています。


リチウムイオン電池と水素燃料電池を搭載した模型ハイブリッド船

リチウムイオン電池と水素燃料電池を搭載した模型ハイブリッド船

── 船ならではの電動化の難しさには、どのような点がありますか。

貨物船での電化は、1990年頃からディーゼル発電機の電力を利用して電動モーターで推進することで燃費効率を上げており、その意味では「電化」が進められていると言えます。しかし、電気自動車のように、蓄電池だけで大型船を動かそうとすると非常に大きな蓄電池が必要となるので、船の全ての電力を蓄電池だけで賄うことは現実的ではありません。
また、船については、以前から燃費効率の向上や自然エネルギーの利用など省エネ技術の蓄積があります。GHG削減を考える際には、電動化の技術も考慮に入れることが重要であり、GHG削減の目標を踏まえながら、水素やバイオ燃料、アンモニアや天然ガスなど、多様なエネルギーも用いて効率の良いハイブリッド推進システムをつくることが私の当面の目標です。その中でも、私は水素に注目し、水素燃料電池を安全に管理・運用できる技術開発を進め、次世代船舶につなげる研究を続けています。

── JAXAも取り組んでいる航空機の電動化についてはどう思われますか。

ハイブリッド推進システムの制御技術や、小型軽量化の技術に興味があります。電動化やハイブリッド化を進めると、航空機の機体も、船の船体も、全体の構成を変えていくことが必要になります。重いものを動かす点では航空機も船も同じですが、航空機の方がより重量にシビアであり、小型化・軽量化にも高い技術を求められます。これから進む航空機電動化の研究開発で得られた成果を、船舶の分野でも応用できることにとても期待しています。




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