飛行機の脚

JAXAメールマガジン第190号(2013年1月15日発行)
中道二郎

みなさん気楽に読んでください。調布航空宇宙センターにおります中道二郎です。
私は、1979年にJAXAの前身の1つである旧NAL(航空宇宙技術研究所)に入所した。機体第一部空力弾性研究室に配属された。学生時代はフラッタ(空力弾性)計算ひとつしたことがなかった。職場には世界的に著名な空力弾性研究者が4人はいた。上司に呼ばれた。「君……! 今からフラッタの勉強をしても退職する頃やっとモノになるくらいだよ。飛行機の脚の研究をしてみてはどうかね? NALには脚の専門家がいないんだよ」
そう示唆されて少し勉強した。スプリングバック、スピンアップ、シミーやハイドロブレー二ング不安定、車の脚まわりと同様な課題があることがわかった。特に将来のSST(超音速機)が開発された場合、2~300席を想定しても、機体長はユウに100mを超える。低速性能は期待できない、細い胴体、翼厚3%程度。可動コックピット方式を採用しても、相応の脚を機体にしまい込むには相当苦労がある。ムカデのように小型の脚を何対も装備する案もあるというようなことも知った。

去年、産学官連携形態の模索という業務で、5年ぶりくらいに、航空機メーカー4社を巡る機会があった。5年の期間は、航空機産業の趨勢(すうせい)の変化を見るのに丁度よい。勿論、メーカー側からはJAXA航空部門の変化を見ている。「最近のJAXA航空には各分野で技術的に困った時に相談に乗ってもらえる専門家がいない」という。例えば、先の話の脚の専門家は某大手サプライヤーにはいる。しかし、みなが等しく頼れる専門家はJAXAにいなければならない。メーカーにいるのでは事情が違う。
産学官連携……と旗を振っただけでは難しい面がある。JAXAの研究者、技術者がメーカーに対して指導的立場を保つ、最近のJAXA航空はそういう役割を放棄してはいないか? 容易なことではない。プロジェクトを成功させ、かつ研究業績を蓄え、求心力を得る必要がある。基本的なこととして、その辺が産業界との連携を深めるための大きな要素だと思う。

未だに脚の専門家はJAXAにはいない。私は脚の研究をしていれば、おそらく今よりももっとメーカーから頼られる存在になっていたかも知れないと思うことがある。残念なことをした。