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宇宙航空研究開発機構

旅客機の開発

JAXAメールマガジン第195号(2013年4月5日発行)
水野洋

こんにちは!航空本部の水野 洋といいます。私は他の研究者とは違って航空機メーカを退職してからこのグループで客員研究員をしていて、これ一筋に研究してきたという分野はなく航空技術の総てに興味があります。というのも大学を卒業した年にYS-11計画が始まり、たまたま就職先でその風洞試験を担当したのを契機に、続く設計や飛行試験などを通して、空力、構造、制御、何でもやらされたお陰です。当時は旅客機に乗るどころか見たこともないという私達に対し、技術部長さんは「先ずは羽田に行って見て来い」と言うところから始めたのですから大変だったと思います。その頃JAXA航空本部の前身である航空技術研究所も開設され、身内のように手伝って頂きました。今はビルが建ち並び全く見えなくなりましたが、当時は三鷹駅を出ると畑の向こうに見える大きな遷音速風洞をめざして足繁く通ったものです。

YS-11では1962年に初号機が初飛行したところで、“飛んだぞ! 万歳!”といって開発が終わったつもりでしたが、実は旅客機に要求される厳しい耐空性基準を満たしての型式証明取得にはそれから飛行試験が2年も続きました。次に国内の航空会社が運航を始めたら苦情続出でまともな商品にするのに更に時間を要し、本場米国市場への輸出に当たっては性能増強のための離陸重量増大や防氷装置の大改修などが必要でした。要するに旅客機開発は経験の蓄積が重要で一朝一夕には成功しません。YS-11はこんな苦労の末に漸く市場に受け入れられる機体になったが、残念ながら更なる派生型の開発などで市場を拡げて採算点を越えるだけの体力が無く、初飛行後10年を経ずに182機生産したところで計画は中止されました。

高空を高速で多くの旅客を安全かつ経済的に輸送する旅客機は、自動車の100倍とされる200~300万点の部品で構成され、その開発・生産は広範囲の先進技術と基盤産業の統合で成り立つため、知識集約的ハイテク産業の頂点に立つ民生品といえます。このため科学技術創造立国を目指す我が国に適した産業です。

航空輸送には代替機関がなく、その需要は経済発展に伴って着実に増大し、今後20年では約3倍になる予測です。ただ昨年の旅客機市場は大型機:1200機とリジョナル機:220機の合計12兆円の規模で、自動車の8千万台、120兆円より一桁小さい。その市場で高度な産業を育成したい国々がそれぞれ自国メーカを支援して争っています。現在大型機市場では欧州エアバス社と米ボーイング社が、比較的小型で短距離を輸送するリジョナル機市場ではカナダのボンバルディア社、ブラジルのエンブラエル社および仏伊共同のATR社があり、そこに日本は再び70~90席のリジョナル・ジェット機MRJで挑戦しようとするのですが、中国やロシアも参入を図っており、激しい競争になることは必定です。

MRJは日本の高い技術を評価する顧客から既に325機を受注していますが、これから初飛行、認証試験を経て世界市場に就航し、更に改良型・発展型などの二の矢、三の矢を放って、競争を勝ち抜き事業を軌道に乗せるまでには長い道のりがあり、一私企業だけで完遂するのはなかなか難しい。50年ぶりのYS-11のリベンジに向け、国を挙げて皆様にも応援をお願いします。

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