航空の活性化という言葉

メールマガジン第205号(2013年9月5日発行)
泉耕二

“航空の活性化”。この言葉の持つ意味を皆さんはどう受け取められますか?
日本の航空機産業の活性化? 航空の科学技術の活性化? いろいろな意味合いで用いられるでしょう。航空宇宙産業を語る時、まず世界の航空宇宙、特に欧米の昨今の流れと日本の現状、いわゆる現状認識から始まる事に異論は無いと思います。釈迦に説法ですが、航空先進国である米国の航空では、今、何が問題でしょうか? 色んな角度から整理できると思います。偏った見方ではありますが、私の昨今の活動の中から紹介します。

米国の航空宇宙学会(AIAA)の年会が毎年1月の初旬に開催されます。この学会に出席すると、今、米国の航空で何が問題で何処に予算が集中しているのかをある程度読み取る事ができます。他にも、米国の航空情報を得るには「Aviation week」をはじめとする雑誌、AIA(航空宇宙工業会)、AIAA等から毎日のようにメールで航空情報が入ってきますので、そのトピックスを整理すると全貌が見えて来ます。その中で最近頻繁に現れてくるキーワードが無人航空機(UAS:Unmanned Aircraft System)です。もちろん米国を中心にUASは安全保障の技術として使われていますが、年間予算額は我がJAXA全体の年間予算の約1.5倍が使われています。

Unmannedと銘打っている事から判りますように、人の存在をかなり意識しています。実は無人化によるご利益は、人命を危険から守るという第一義的な使命がありますが、無人化によって人では出来ない事、3K(危険・汚い・きつい)に対応できる事もあります。別の話題になりますが、実は米国の航空界では深刻な問題を抱えています、それは「人の問題」、即ちパイロットです。米国では既にここ10年以上、民間・軍ともにパイロット総数の減少傾向が続いています。意外に感じるかもしれませんが、特に戦闘機・旅客機のパイロット数の減少は深刻になっています。理由は幾つもあるようですが、戦闘機の場合、1人のパイロットの育成に約6億円かかるという事もさることながら、運航の人件費・安全性・更にはライバルとしてのUASが登場して来たという事があると云われています。どのひとつをとっても有人機の魅力は無くなっていると云われて久しいです。

また、商用の民間航空機の世界でもパイロット不足は深刻になっています。このような状況変化の中、米国の航空の活性化という言葉にはこのパイロットの減少傾向「人の問題」にどう対応するかという視点が欠かせません。この対策の為には勿論、更に安全性の高い航空機を開発すること、パイロットや空港管制官の作業負荷がより少い航空インフラの開発、パイロットの育成の為の底辺活性化(例えばスポーツや趣味のためのパイロット育成)をどのように進めるべきなのか。これ等の課題解決無くしては航空機産業の活性化という言葉は使えない事が判ります。
そこで、どう対応するか、産官学の連携、FAA、DOD、NASA、EAA、AIA、GAMA、AIAAという米国の官民の機関が連携しいろいろな取り組みを進めています。上位の概念にはNextGen(次世代航空管制システム)があり、これ等の活動にはAIAA、NASAともに重要な役割を演じています。航空先進国だけに問題は深刻であり、以前米国のエアショーでの事、FAA(連邦航空局)の長官が私企業の小型機の型式認証式に出席し、証書を手渡していた姿が印象的でした。法令や規則で縛る事が官の仕事では無く、航空の「民の活性化」を身を挺して動いている姿には学ぶことが大きいと感じました。

※将来の航空輸送量増大に対応するため、ICAO(国際民間航空機関)は2003年に新技術による運航システム実現のためのビジョン「グローバルATM運用概念」を提示しました。これに対応し米国は次世代航空管制システムNextGenプログラムを立ち上げ、4次元軌道管理、衛星航法、広域情報管理など8つの戦略技術を提示し、研究開発を推進しています。同様にヨーロッパでは「SESAR」、日本では「CARATS」プログラムが進められており、JAXAはCARATSと連携した「DREAMSプロジェクト」が現在進行中です。