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宇宙航空研究開発機構

想定限度の50%増しの強度保証は妥当?……過剰?

JAXAメールマガジン第217号(2014年3月20日発行)
薄一平

こんにちは。JAXA航空本部の薄(すすき)一平です。飛行機の壊れない話の続きをしたいと思います。
前回(第209号)の私のコラムで、航空機は「制限荷重」と名付けられた想定限度荷重の50%増しまで強度保証をしている話をしました。きちっと50%増しです。だとしたら逆にそんなドンブリ勘定で設計しなくて良いはず、きちっと贅肉を落としてきちっと軽量化を図りたい…。実はこの50%の余裕には飛行中のエンジン再始動のための、いわば非常事態対処時に耐えなくてはならない強度が見積もられているのです。

万が一、飛行中にエンジンがすべて止まったら航空機はどのようにエンジン再始動をするのでしょうか。一部の小型自家用機を除いてはセルモーターは装備されていません。大型ジェット機ではエンジンに大量かつ高速の空気を吸い込ませながら点火して再始動させるのです。大量の高速空気を吸い込ませるためには機体を急降下させます。そして点火、再始動するまで繰り返します。この一連の非常時における急降下と機体を一旦水平に戻す「引き起こし操作」では制限荷重を超える負荷が航空機にかかります。この強度余裕が50%増の中に含まれていたのです。

航空機のジェットエンジンは極めて信頼性の高い機械システムです。開発過程における幾多の、複雑な、本当に数えきれないくらいの試験にすべて合格しなければ航空機に取り付けられません。その中にはバケツをひっくり返したような雨を吸い込んでも停止しない、とか氷塊が飛び込んでも大丈夫、とか経験と実績に基づく試験項目が目白押しに並んでいます。ですからそれらに合格した航空エンジンが飛行中にエンストするなどまず考える必要のないほどの低い確率です。
ところが航空エンジン4基を備えた旅客機が飛行中に全エンジン停止という非常事態に遭遇したのです。最初は1982年6月英国航空009便がジャワ島上空で、次の事件は1989年12月KLMオランダ航空867便が米国アラスカ州上空で。いずれも機体はボーイング社製B747ジャンボでした。「あっと言う間の」全エンジン停止だったそうです。事件後、長い間「謎のエンジン停止」とされてきましたが、今はその原因が突き止められています。その話は長くなるので別の機会に譲りますが、このジャンボジェット機はいずれも冷静な乗務員の適切な対応で、急降下―点火―引き起こし操作によってエンジンを再始動させて無事緊急着陸に成功しました。乗員乗客全員無事でした。このオランダ航空ジャンボ機には日本人ツアー客が多数搭乗していました。

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