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宇宙航空研究開発機構

飛行機事故のはなし

JAXAメールマガジン第263号(2016年3月18日発行)
上野真

次世代航空イノベーションハブ 基盤応用技術研究チームの上野 真です。花粉症なのでこの時期はマスクがお友達です。マスクは何が嫌だって、すぐ眼鏡が曇るわけですよ。前が見えないよ~。危ない危ない。早く暖かくなって眼鏡が曇らないようになって欲しいです。

さて、ご存知の方も多いと思いますが、飛行機は一般に安全な乗り物と言われており、色々な統計がそれを示していますが、一例としてアメリカ合衆国運輸省が発行した“Transportation Safety by the Numbers”という文書によると、2010年のアメリカ国内でのアメリカの大型輸送機による死亡者数は2名であるのに対して、高速道路での死者数は32,885名ということです。とはいえ飛行機の事故は一度の事故で生じる被害が大きい傾向にあり、見過ごせないものです。ちょっとこじつけ気味ですが、今日は飛行機の危険、飛行機事故のことについて考えてみましょう。

ボーイング社が毎年“Statistical Summary of Commercial Jet Airplane Accidents”という文献を発行しています。これは1959年から発行年までに世界中で起きた全備重量60,000ポンド(1ポンドは約0.45kg)以上の民間ジェット機(日本で見かける民間のジェット機はだいたい含まれます)の事故に関する統計についてまとめたものです。この文書によると、2005年から2014年で最も死者数の多い飛行機事故の種類は、LOC-Iと書かれています。全72件の死亡事故のうち17件がLOC-Iに分類されるそうです。2番目はCFIT、3番目はRE(Landing)、ARC、USOSの合計です。略語がたくさん出てきて意味が分からないと思うので、まずは用語の説明をしましょう。

もう一つ、ICAO(国際民間航空機関)が発行するICAO Safety Reportというレポートがあります。これは発行年を中心に、近年の事故の発生状況及び対策状況についてまとめた文献です。この中でICAOはボーイング社の文献にも出てきたRunway Safety(RS) related events(RE+ARC+USOS)、LOC-I、CFITを3大ハイリスク事故発生分類として注意喚起しています。すなわち、今、航空界が最も熱心に取り組んでいる安全要素はこの3つです。2014年で見ると、事故件数としてはRSが最も多いのですが、死亡者数はLOC-Iが断トツで多くなっています。RSが地表もしくは地表近くで生じるのに対して、LOC-Iは飛行中に起きるので、死亡率が高いのもうなずけます。

飛行機の設計や制御技術が進歩した結果、飛行機の安全性は飛躍的に高まり、死亡事故に遭遇する確率は極めて低くなったと言われています。そのような状況下で起きる事故とはどういうものでしょうか。「事故の原因」と言われるものは実は様々ですし、色々な要素がからみあって最終的に事故に至っています。しかし、IATA(国際航空運送協会)のRS、LOC-I、CFITそれぞれに関する分析レポートの結論には、LOC-I、CFITに関してはパイロットの知識や行動に問題があることが共通する要素として挙げられており、訓練の重要性が指摘されています。RSに関しては様々な要因でブレーキがうまく効かなかったことが挙げられています。

飛行機は自動化が進んでいます。よって、設計で想定された範囲内では、非常に安全に飛行することができると言えましょう。しかし、自動というものは、「想定された範囲内」での制御を可能とするものです。よって、操作手順からの逸脱や、ブレーキの制動能力を超えた路面状況、想定された以上に乱れた大気中の飛行、誤操作、といった想定外の状況においてはそれまでうまくいっていたものが突如としてパイロットが何とかしなければならない状況として降りかかってくることになります。このような状況からの回復、あるいはこのような状況に陥らないためには、その時に何が起きているのかを正確に把握していることが必要であり、訓練・教育によってどのようなことが起こり得るか、どのような対処が可能かを知っておくことが必要です。
ICAO、IATAといった国際機関や各国の規制当局は事故要因の分析、啓蒙、ツールキットの提供、あるいは訓練品質への要求という形で、事故の減少に力を注いでいます。また、CFITは対地接近警報装置の普及に従って減少しつつありますが、想定可能な事柄は対処可能なことが多いので、事故の兆候を想定しておくことで事故を未然に防ぐためのシステム構築も必要です。事故率は長期的に減少を続けていますが、事態を把握し、事故を防ぐための努力が続けられています。

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