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宇宙航空研究開発機構

飛行機の窓からの景色

初めまして、空力技術研究ユニットの廣谷智成と申します。

ゴールデンウィークにお遍路に行ってきました。今年は丙申(ひのえさる)のうるう年ということで、逆打ち(お寺の番号を逆の順番で回ること)をすると、とてもご利益が大きいそうです。それに乗っかった訳ではないのですが、室戸のあたりを歩いてきました。数年前から職場の仲間と数人で歩き遍路をしています。なので、今は少し心が清らかになったつもりでいます。(もう賞味期限切れかも。)

東京から四国までは飛行機で行きました。皆さんは飛行機に乗る時、どのあたりのシートを取りますか? 窓側のシートだと外の景色がよく見えますよね。エンジン音が気になる方は前方のシートを好まれるかもしれません。私は主翼の上か、主翼の少し後の窓側が好きです。「窓側でも主翼の上やすぐ後だと、主翼が邪魔で景色が見えないんじゃない?」と思われるかもしれません。その通りです。景色を見るには主翼が邪魔です。むしろ私は主翼を見ています。主翼上の空力デバイス(空力的な仕掛け)や舵面が動いているのを見るのはなかなか楽しめますし、特にフラップやスラットなどの高揚力装置が作動する様子を見るのは面白いです。

現在、皆さんが普通に乗る飛行機には必ず高揚力装置がついています。では、どうして高揚力装置が必要なのでしょう。高揚力装置はその名の通り、「揚力(機体が浮く力)」を高める、つまり増やす装置です。「高揚力装置で揚力を増やすのなら、はじめから大きな揚力が出るように作れば良いんじゃない?」と思われるかもしれません。しかし、そうはできない事情があります。旅客機が空を飛ぶ時、離陸し、巡航し、着陸します。時間として一番長くなるのは巡航です。巡航時の性能が運航の経済性に大きく影響します。そのため、旅客機の基本的な形状は、巡航時に最も有利になるように設計されます。具体的には、必要な揚力、運動性などを確保した上で、できるだけ抗力(空気からの抵抗力)を小さくします。抗力が小さければ、必要となる推進力が減りますので、燃費が良くなります。燃費が良ければ運航に必要となる燃料は少なくて済みますし、載せる燃料が減った分、乗客を多く乗せることができるため、経済的に有利な運航ができます。巡航時に不必要に大きな揚力が出る形状にすると、抗力も大きくなり不利になってしまいます。
では、基本的な形状のまま、巡航よりも遅い速度で飛ぼうとするとどうなるでしょう。揚力は速度の2乗に比例するので揚力は減少します。揚力の減少分を補うため、機首を上げて気流に対する迎え角を増やし揚力を増加させるのですが、これには限界があります。そのため、基本的な形状ではある程度以上の速度でしか飛ぶことはできません。つまり、基本的な形状のまま機体の形状を変えずに離着陸を行おうとすると、地上でかなりの加速、減速をすることになるため、相当長い滑走路が必要になってしまいます。これでは現実的な運航はできません。そこで、高揚力装置の登場です。離着陸時には、一時的に揚力を増やす(抗力も増えますが)ため、高揚力装置を作動させます。これにより低速でも十分な揚力が得られ、低速での飛行が可能になり、適切な滑走距離での離着陸ができるようになります。

高揚力装置が作動する様子を気にされたことのある方はお気づきかもしれませんが、実は離陸と着陸では作動のさせ方が違っています。特に後縁フラップ(主翼の後ろ側のフラップ)が分かりやすいです。離陸では加速、上昇するため、揚力は増やさなければなりませんが、抗力が増えすぎるのは好ましくありません。ちょうど良いところになるように、具体的には、通常、揚力の大きさを抗力の大きさで割った値(「揚抗比」といいます)がなるべく大きくなるように後縁フラップを降ろします。一方、着陸は減速して行うため抗力が増えても構いません。そのため、離陸の時よりも大きく後縁フラップを降ろし、揚力をできるだけ大きくします。

機会があれば、主翼を眺めつつ空の旅というのもいかがでしょうか。(廣谷智成)

▽ フラップやスラットなどの高揚力装置

フラップやスラットなどの高揚力装置


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