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宇宙航空研究開発機構

国際共同研究の効用

JAXAメールマガジン第271号(2016年7月21日発行)
吉田憲司

皆さん、こんにちは。航空技術部門の吉田憲司です。この4月からプロジェクトから離れて専門分野に戻り、航空機の空力課題に関する技術的支援をさせていただいています。今回はその立場で以前行った仏国航空研究所(ONERA)との共同研究の経験談をご紹介させていただきます。

研究テーマは「超音速翼の遷移予測法」で、当時遷移研究では世界的権威であり憧れの研究者であるDaniel ArnalさんがONERAにいらしたことに端を発します。NEXSTプロジェクトでは超音速機の摩擦抵抗低減法として世界初の層流翼の飛行実証を試みました(2005年に成功)。1998年当時は市販の非圧縮遷移予測コードしか手元になかったのですが、定性的には超音速機の問題にも使えるとの判断で主翼を設計しました。しかし、空力担当としては圧縮性コードを独自に開発して設計効果を評価すること、加えて検証実験の必要性を強く認識していました。そこで、プロジェクト開始前に途中まで手掛けていた圧縮性コードを急いで整備するとともに、主流乱れの小さい風洞であるONERAの回流式超音速風洞を用いた検証実験を計画しました。

1999年に、ちょうどONERAとの共同研究募集があったことを利用して、この件で早速Arnalさんにコンタクトしました。Arnalさんも超音速の遷移問題に興味を持っていた時期であり、共同研究の調整は順調に進みました。実際に共同研究がスタートしますと、遷移予測法に関するたくさんのノウハウ、経験、ONERAが所有する膨大なデータベース等の情報を快く開示くださり、それらを貪欲に吸収して一歩ずつJAXAの研究を前に進め、結果として層流翼の効果を双方で確認することができました。またArnalさんの強い希望で、飛行実験データの解析・評価まで内容を広げ、結局足かけ10年にも及ぶ共同研究となり、共著の報告書と論文を数本執筆することができました。スタート時には全く想像もしていなかったゴールにまでたどり着き、プロジェクト的には非常に有意義なものとなりました。

正直費用面も含めまして“汗をかいた量”は圧倒的にJAXA側の方が多かったと思いますが、それでも10年も続けられたのは、私をはじめとするJAXA側の参加者がArnalさんの“胸を借りて”追い付こうとする強い思いと、Arnalさんと学問的に最先端の課題を一緒に解決して行ける喜びを味わえたからだと思っています。そして、研究が進むにつれてはるか先にあったArnalさんの背中が次第に近づいてくるように肌で感じることができた喜びはまさに国際共同研究の効用と感じています。

最近の若い研究者は海外経験も豊富で、決して“相手の胸を借りる”ような感覚はないのかもしれません。それは素晴らしく、また頼もしいと思います。しかし、世界は広く、きっと胸を借りたい手本のような人はいるはずですので、私どものようにその人に一歩でも二歩でも近づこうと努力した結果、お互いで最先端の研究成果を挙げることができ、かつ自身の研究レベルも向上させることができる機会がつかめるのも国際共同研究ならではの効用と思うのですが、いかがでしょうか? どうか国際共同研究に積極的に挑戦し、自身の殻を破る契機にしていただくことを願ってやみません。

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