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宇宙航空研究開発機構

磁力支持風洞とは(その1)

2019年6月21日
杉浦裕樹

風洞は、航空機や宇宙機の飛行状態を地上で模擬する設備です。人工的に気流をつくり、縮尺模型回りの空気の流れを調査するために用います。主に、航空機を設計したりする段階や、飛行試験で機体が所定の性能を、近年は数値計算(CFD)の果たす役割が大きくなってきていますが、設計した機体の最終性能や安全性の確認は必ず風洞試験で確かめます。また、搭載物や付加物を追加するときや何か問題が生じたときには必ず風洞試験で調べることが必要になります。

風洞では、模型を支柱などで空中に支えることが必要になります。風洞で精密な測定が可能としているのは、機体が固定されていることです。ですから、これはメリットでもありますが、実際に飛行する機体では、支柱などはありませんから、機体の周りの流れの模擬という意味では、これは問題となる場合があります。このため、飛行状態と同じように、支柱無しで、空中に模型を浮かせられないか、というのが、磁力支持が開発された理由です。

磁力支持とは、支柱等によらず磁気力を用いて模型を空中で支えて、風洞試験を実施する技術です。通常は供試模型に永久磁石等が入っていて、風洞測定部の周りに複数の磁気コイル(いわゆる電磁石)を配置し、これら磁石間の反発力・引力により模型を風路内で浮揚させます。

模型内蔵の磁石が、測定部下の電磁石と反発して浮揚し、測定部上の電磁石とは引き合い、両電磁石の強さを適切に調整することによって所望の位置に保持します。左右方向、前後方向に関しても同様な原理で制御します。模型の位置・姿勢は、光学センサー等により検出し、その情報をもとに磁気コイルに流す電流を変化させるフィードバック制御を行います。この電流は模型に働く力に比例しており、較正すれば定常だけでなく非定常力も計測できます。このように原理は単純ですが、磁場の中に配置された磁石は常にフィードバック制御を行わなければ不安定であるため(アーンショーの定理)、一定以上の制御速度(100Hz以上)と分解能(0.2°/0.2mm以下)が最低限必要となります。

磁力支持技術は、1957年にフランスの航空宇宙研究所(ONERA、通称オネラ)により、まずは低速風洞で開発されました。ONERAの成功に刺激を受け、米国のマサチューセッツ工科大学やNASA、英国のサザンプトン大学、ロシアの中央航空流体力学研究所(TsAGI、通称ツァギ)等でも、小型風洞の研究開発が始まりました。さらなる大型化には、当時の技術では費用がかかりすぎ、磁力支持の研究は一時下火となりました。

日本では1986年に航空宇宙技術研究所(現JAXA)が研究開発を始めました。2000年には60cm磁力支持装置を完成させ、実用的な風洞試験が可能となりました。1990年代に各国の研究が休止する中、研究の継続により日本は世界トップを走ることとなりました。この結果、わが国では磁力支持の研究が特に盛んであり、福岡工業大学、九州大学、防衛大学、株式会社IHI、三菱重工業株式会社等で実施されています。ここ数年は東北大学で活発な取り組みがなされています。

次回は磁力支持の特徴や今後について、もう少し詳しくお話します(つづく)。

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