乱気流事故防止機体技術の実証(SafeAvio)

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JAXAでは、航空機事故低減を目指し、航空機搭載型ドップラーライダーの研究開発を行ってきました。ドップラーライダー技術を用いると、従来の気象レーダでは検知できなかった晴天乱気流を見つけることができるようになります。2008年から2017年までの10年間に、日本国内で起きた大型航空機事故のうち、およそ40%超が乱気流に起因していました。晴天乱気流の検知・情報提供・回避ができれば、乱気流事故低減につながります。

JAXAでは、2014年度~2017年度には「乱気流事故防止機体技術の実証(SafeAvio)」プロジェクトを実施、ライダー技術をベースにした晴天乱気流検知・情報提供システムからなる「乱気流事故防止システム」を開発し、2017年に小型ジェット機を用いた飛行試験でシステムの有効性を実証しました。また、2018年にはボーイング社のエコデモンストレーター・プログラムにも採用され、大型機での飛行実証にも成功しています。

現在は、航空機搭載型晴天乱気流検知装置に関する技術の実用化を目指し、標準化に向けた活動を行ってるほか、検知した乱気流情報をもとに自動的に機体を制御して機体の揺れを低減できるようにする「機体動揺低減技術」の開発も進めています。さらに、ライダー技術を応用し、空中に漂う火山灰や氷晶を遠隔検知する機能についても、研究開発を行っています。

開発中の機体動揺低減技術も含めた乱気流事故防止システムの運用イメージ
(乱気流検知:巡航中であれば機体動揺を低減/着陸進入時であればパイロットに情報を提供し着陸復行する)

乱気流検知システム

概要、技術目標と成果

ドップラーライダーは、航空機からレーザー光を放射して、大気中に浮遊するエアロゾル粒子(微細な水滴やちりなど)からの散乱光を受信し、ドップラー効果による光の波長変化を調べることにより、波長変化による気流の変化、すなわち乱気流を求めることができます。これにより多くの航空機に搭載されている気象レーダで検知できなかった晴天乱気流を検知することが可能になります。

航空機へ搭載するドップラーライダーは、軽量かつ高出力である必要があります。羽田空港や成田空港などの主要な空港で運用されている地上設置型のドップラーライダーは、大型で重量も重く、そのまま航空機に搭載することはできません。また、ジェット機が巡航する10km以上の高高度では、エアロゾル密度が減少し散乱光が弱くなるため、より強力なレーザー光が必要になります。つまり、軽量かつ高出力のドップラーライダーが必要となります。

JAXAでは2011年に重量が約150kgで、高度12,000mの高高度において約9km先の乱気流を検知することが可能な航空機搭載型のドップラーライダーを開発しました。高高度でも乱気流検知できることを飛行実証し、翌2012年2月には晴天乱気流の遠隔検知に世界で初めて成功しました。

さらに、2017年1月から2月にかけて行った飛行試験では、気流の検知距離としては世界トップとなる17.5km(各高度平均値)先にある気流を観測しました。これは、乗客1人分程度の重量のシステムで約70秒前に乱気流を検知することができ、乗客にシートベルト着用を促す時間余裕を生み出すことによって負傷者を6割以上減らすことが可能となる技術です。

搭載型の晴天乱気流検知装置(ドップラーライダー)

性能・仕様(2016年)
レーザー波長 1.55㎛
光出力 3.3W
ビーム径 150mm+50mm
重量 83.7kg
消費電力 936W

実用化に向けた連携と研究開発の広がり

この研究開発成果が米国ボーイング社から高く評価されたことにより、2018年2月には同社が実施する「エコデモンストレーター2018プログラム」において晴天乱気流検知システムを大型機(ボーイング777型機)に搭載して飛行試験を実施しました。航空機アビオニクスとしてのドップラーライダーと情報提供の実用化に向けた評価を得らえたほか、航空機への搭載、搭載後の調整および運用に関する技術課題などの知見が得られました。大型旅客機への実装の実現性が確認できたことで、今後の晴天乱気流検知システムの実用化に向けたさらなる研究開発を進めます。

さらにライダー技術を応用し、空中に漂う火山灰や氷晶を遠隔検知する機能を具体化する検討を行っています。飛行中に火山灰や氷晶が多い高度・空域を特定できれば、トラブルの可能性が高い空域を回避できますし、どうしても飛行しなければならない場合にも、吸い込んだ火山灰の量を推定し、点検整備に活用することが可能になります。火山灰や氷晶はエアロゾル粒子よりも大きく検知は容易ですが、物質まで特定するには、ドップラーライダーの受信系統を二重化して差分を調べる必要があります。今後も、航空機事故を防ぐための搭載型ライダー技術の研究開発を進めていきます。

機体動揺低減技術

次世代航空イノベーションハブの活動

SafeAvioプロジェクトで開発した、晴天乱気流の検知が可能な乱気流検知システムからの情報を使って、推定した気流ベクトルデータをもとに舵面(航空機の姿勢をコントロールする動翼)を自動で制御することで、機体の揺れを低減させる技術を実証します。

機体動揺低減技術の概念図

乱気流遭遇時の客室内のシミュレーション結果(62秒)

左は通常の乱気流遭遇時の客室内。右は機体動揺低減技術で上下の揺れ(上下加速度)を半減できた場合の客室内。

乱気流事故防止機体技術の研究開発(6分53秒)


2020年1月24日更新