COLUMNコラム

2022.9.16

航空用エンジン 要素技術を開発・実証

優位性確保

昨今の環境負荷低減に向けた取り組みは一層強化されており、航空機の運航における燃料消費削減に伴う二酸化炭素(CO2)排出低減、窒素酸化物(NOx)などの有害な排出ガスや騒音の低減に向けて、エンジン要素技術の進展が大きな役割を担っている。そうした観点から、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では産業界と連携を深めつつ、航空用エンジンの要素技術の開発と実証を行ってきた。

近年では、エンジンの燃費低減につながる軽量ファンなどの技術開発を行う高効率軽量ファン・タービン技術実証(aFJR)プロジェクト(2013年度~2017年度)や、現在進行中の燃焼器やタービン技術高度化を狙うコアエンジン技術実証(En-Core)プロジェクト(2018年度~)が実施され、その成果は国内メーカーを通じて社会実装が進んでいる。こうした要素技術実証は国内の技術レベル向上に大きく貢献しているが、技術の成熟度を高めるには実エンジン環境での実証を行うことが、とりわけ国際共同開発に向けた優位性確保のために重要となる。

実環境下で実証

こうした観点からJAXAは、国内で独自に実エンジン環境での実証を行えるよう、2019年9月にF7-10エンジン(以下、「F7エンジン」)を株式会社IHI(以下、「IHI」)より購入し、調布航空宇宙センターの地上エンジン運転試験設備に導入した。F7エンジンは防衛装備庁によってP-1固定翼哨戒機用に開発され、IHIによって製造されている純国産ターボファンエンジンだ。防衛装備品であるF7エンジンのJAXAへの導入は、防衛装備庁とIHIとの間でJAXAへの販売に向けた民間転用契約が2016年12月に結ばれたことを受け実現した。F7エンジンは民間旅客機用のエンジンにも幅広く使われる高バイパス比のエンジンであり、また純国産であるため、研究開発した要素技術を実エンジンシステムに組み込んで、実際のエンジン作動環境下で独自に技術実証を行うことが可能になり、得られる実証成果により高い競争力を得ることが期待される。

設計分担拡大

F7エンジン導入後、地上エンジン運転設備への適合性確認などを経て、2021年には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業においてIHIが開発したCMC(セラミック基複合材料)製タービンシュラウドの搭載試験を実施し、開発したシュラウドがエンジン運転環境においても健全に機能を果たすことを確認した。2022年6月には、aFJR プロジェクト成果である軽量吸音ライナの搭載試験を実施した。JAXAは、今後さまざまな優位技術のエンジン搭載試験を通じてエンジン要素技術の成熟度を高めていくことにより、わが国の航空エンジン産業界の国際競争力を強化し、国際共同開発における設計分担拡大を目指す。

地上エンジン運転試験設備に導入されたF7-10エンジン

© JAXA

※本コラムは2022年7月時点の情報となります。

1993年航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)入所。航空エンジン用燃焼器内部流解析、燃焼器開発に従事。2019年よりF7エンジン担当。2021年10月より現職。

航空技術部門 設備技術研究ユニット 推進設備チーム長
牧田 光正

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