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宇宙航空研究開発機構

飛行試験場所を探せ!

JAXAメールマガジン第211号(2013年12月5日発行)
飯島朋子

電気飛行機の飛行試験場所を探しているけど、なかなか見つからない! それが最近までのFEATHERチームの悩みでした。JAXAメールマガジン第194号第203号でも述べましたが、JAXAでは、モーターグライダーのエンジンを電気で動くシステムに変更して飛行実証するFEATHER(Flight-demonstration of Electric Aircraft Technology for Harmonized Ecological Revolution)と呼ぶ研究を進めています。来年度、FEATHERでは電気自動車の飛行機版となる新しい独自の技術を飛行実証する予定ですが、肝心の飛行実証する試験場所がなかなか見つかりませんでした。

「え、何で? 空港や飛行場なら日本中いくらでもあるし、JAXAは北海道に大樹航空宇宙実験場という立派な試験場を持っているでしょう。」と皆様はおっしゃられるかもしれません。しかしエンジンを電気で動くシステムの電動モータとバッテリーに変え、日本で初めて有人飛行させるということで、飛行中の故障も考えなければいけないし、普通の空港であれば試験によって定期便の邪魔にならないこと、試験場の温度や風向・風速環境がシステムや試験にむいていること、格納庫や作業スペースが借りられること等の条件を満たす飛行場が必要になり、これらの条件を満たす飛行場は簡単には見つかりませんでした。
試験する際に一番重要な飛行中の故障に関しては、飛行中のどの位置・高度においてシステムが故障したとしても飛行場に安全に帰還できることを要求事項として挙げました。飛行試験には様々なステップがありますが、今回の飛行試験では離陸して滑走路の周りを回って着陸する(場周飛行)基本的な飛行を実施します。モーターグライダーは上空でエンジンを止めて滑空できるため、場周飛行中の巡航高度でエンジンが止まっても滑空飛行して容易に飛行場に着陸できます。
しかし離陸中の低高度でシステムが故障した場合は、そのまま降下して真っ直ぐ滑走路内に降りる(ジャンプ飛行)か、反転して逆向きに着陸する(反転飛行)かを決定しなければなりません。
ジャンプ飛行では、滑走路が十分長ければ高い高度で故障してもそのまま真っ直ぐ降りられる滑走路の残距離があるのですが、滑走路が短くなればなる程滑走路から出てしまう危険性が生じます。着陸の際の滑走路の残距離が短くなればなる程パイロットは負荷を感じるため、残距離が短い場合はなるべく低い高度でまっすぐ降りたいのです。
一方、滑走路の長さは有限なので、離陸してある程度高い高度に来た時は真っ直ぐ降りられる滑走路距離が残されていないため、反転して逆向きに着陸する(反転飛行)ことが求められます。反転飛行ではそれなりの高い高度が必要です。高度が低ければ反転(逆向きに旋回)中に高度を失い滑走路にたどり着く前に滑走路外の地面に不時着する危険性があるからです。低高度で反転する場合は機体を傾ける角度(バンク角)をある程度深くせざるをえず、地面もせまってくるためパイロットの負荷が高くなります。つまり、エンジンが止まってどうしても旋回する必要があるなら、パイロットとしてはなるべく高い高度にて旋回したいのです。
ジャンプ飛行時にどれだけ高い高度まで上昇でき、反転飛行時にどれだけ低い高度で旋回できるのか、つまり、いつでも安全に飛行場に帰還できるためにはこの相反する二つの高度が重なっていることが必須条件となりました。
というわけで、ジャンプの際の最高高度と反転の際の最低高度が重なる条件を満たすために、3000m近くの長い滑走路長を持つ飛行場が必要になりました。この3000m級の飛行場や空港はあるにはあったのですが、定期便が多くて混雑していたり、定期便も少なくて最適だと思った空港は温度や風向・風速の条件が悪かったり等、どこもかしこも帯に短し襷に長しの状態でした。名古屋空港、百里基地、下地島の飛行場、海外ではオーストラリアの飛行場等が候補に挙がりました。名古屋は定期便が多い、百里基地はスクランブル発進の可能性がある、オーストラリアは予算上困難、下地島は温度・風環境がむいていない等、なかなか見つかりませんでした。日本中の飛行場・空港を条件に当てはめては探し、候補はどんどん無くなっていきました。そして、やっとたどりついたのが航空自衛隊岐阜基地の飛行場でした。先日、岐阜飛行場において電気システムに変更する前の原型機を用いて、実際にシステムの故障を模擬したジャンプ飛行と反転飛行の飛行試験を行い、安全に帰還できることを確認しました。

今回お伝えしたかったことは、航空機設計・開発において航空機そのものの技術だけではなく、技術を実証するために様々な条件をクリアしなければならないこと、その一つとして飛行試験場所を含む飛行条件を選定する技術が必要になるということでした。
ところで、岐阜飛行場はジブリ作品の「風立ちぬ」の映画でも出てきた各務原飛行場と同じ場所です。「大丈夫、この電気飛行機は飛ぶよ。だって風が立っているもの!」そんな言葉を零戦設計者の故堀越二郎氏に言ってもらえないかと思いを馳せています。

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