回転翼機の発展の歴史-航空機として飛ぶ工夫(3)-

JAXAメールマガジン第218号(2014年4月7日発行)
齊藤茂

こんにちは、ヘリコプターを研究している齊藤茂です。前回に引き続き回転翼機について考えてみます。
前回は、ヘリコプターが自在に飛ぶための3つの発明について説明しました。即ち、1.フラッピング・ヒンジ(間接型ヒンジ・ローター)、2.反トルク装置(テイル・ローター)、3.可変ピッチ機構(スオッシュ・プレート)です。この中で、可変ピッチ機構のついては前回説明ができませんでした。

ヘリコプターのローターは、飛行方向に対してほぼ平行に取り付けられています(実際には、数度前方に傾いています)。したがって、機体が前進速度をもつと、ローターの前進側(進行方向に向かう回転領域)で、回転速度と飛行速度が重畳されブレードが感じる速度が大きくなります。他方、後退側(進行方向と逆に向かう回転領域)では、回転速度と飛行速度が相殺された形となり、ブレードが感じる速度が小さくなります。この速度のアンバランスは、ローターに発生する力のアンバランスと直接関係しています。即ち、通常ロータが受け持つ自重(Weight)と釣り合うための上方の力(Thrust)と前進方向に進むために機体全体に係る抗力(Drag)と釣り合う力がバランスして初めて安定して前進飛行ができるわけですが、飛行速度が増せば増すほどこの状態からのバランスがずれてきます。 そこで、可変ピッチ機構が登場するわけです。ブレードのピッチ角は、のように変化をします。ここで、はコレクティブ・ピッチ角と呼び主に推力をコントロールします。 およびは、サイクリック・ピッチ角とよびロータ面をそれぞれ横と縦に傾けるためのピッチ角です。通常、飛行速度が増すとは負で大きくなります。
この制御はどの様にしたら実現するのでしょうか。ブレードのピッチ角を変化させるのは、ブレードの付け根の所にあるピッチ・ロッドの稼働によります。このロッドが上下に動くことでブレードのピッチ角を決定します。このピッチ・ロッドは、軸の周りを回るスオッシュ・プレートと連結していて、このスオッシュ・プレートをが0度(ブレードが真後ろ)のときピッチ角がが90度(ブレードが進行方向と一致)のときピッチ角がとなるように傾ければ、ブレードが1回転する間に先に示したピッチ角を実現することができます。
ヘリコプターは、コレクティブ・ピッチ角で上下の釣り合いをとりながら、サイクリック・ピッチ角で前後左右の傾きをまたテイル・ローターを足(Rudder)を使って制御し、機体が回転するのを制御しバランスをとっています。このように、機構的に1回転中のブレードのピッチ角を制御する機構を可変ピッチ機構と呼びます。この機構がなかったころは、機体を制御することが非常に難しく、機体はまさに七転八倒の動きをしてとても飛行するどころではありませんでした。 以上、3つのヘリコプター特有の機構が発明され、操縦士は自由に機体をコントロールすることが可能となったわけです。さて、ヘリコプターが飛行可能となると、次に安全性、操縦性、環境適合性(乗り心地)が問題となってきます。

航空機は、空中を飛ぶものですから安全でなければなりません。したがって、航空機を設計するとき、先ず第一に考えねばならないのは、作動する範囲で機体は破損なり操縦不能となることがないようにしなければならない。これは、飛行中にさらされるであろう最大限の荷重に対して、機体が破壊など起こしてはならないこと、またブレードが数ヘルツの周波数で回転することによるフラッター(Flutter)や共振(Resonance)を起こしてはならないことが最優先となります。これらの現象を回避して初めて、飛行することが可能となるのです。
次に課題となるのは操縦性です。飛行性の評価や飛行安全がこれに含まれます。これらをクリアしたうえで、さらに課題となるのは環境適合性でしょう。乗員や乗客がどの様な乗り心地を感じるか機外・機内騒音はどの程度かと言った課題があります。これらは、ADS33(アメリカの航空設計基準)の操縦性基準やICAO(国際民間航空機関)の騒音基準等で規定されており、商品としてのヘリコプターになるためにはこれらの基準をすべて満たさなければなりません。

次回は、航空機としてクリアしなければならない課題を取り上げ、全てとはいかないが主な課題について順を追って述べたいと思います。