この風で着陸できるの、できないの?

JAXAメールマガジン第220号(2014年5月7日発行)
飯島朋子

航空機の操縦で一番難しいのは着陸だと言われています。特に離陸や着陸の飛行経路上に風の急激な変化や乱気流があると操縦は一層難しくなります。航空機は大気と機体との速度差によって飛行に必要な揚力を得ているため、風の急激な変化があると航空機の速度や姿勢が急激に変化してしまい、特に離着陸時の低高度でこれらが発生すると重大な事故にもつながりかねない危険な状態になります。
日本では離陸や着陸の飛行経路上で風が急激に変化しやすい空港が数多く存在します。これは起伏に富む丘や山の近くに空港が設置されるためです。特に風の強い日は山にぶつかった風が渦をまいて大気が乱れ、その乱れが飛行経路上に存在して風が急激に変化したり、乱気流を発生させます。ちなみに、成田空港の場合で着陸復行(着陸するための降下を止め、再び上昇して着陸をやり直す)の原因の90%以上が風の急激な変化や乱気流との統計データもあります。 この風の急激な変化や乱気流に対処するためには様々な対策が取られています。飛行機に風変化を検出する装置を備えてパイロットに警報したり、空港に風変化を観測するセンサー(例:ドップラーレーダー、ライダー)を整備して、センサーで検出した情報を管制官がパイロットに伝えたりしています。それにも関わらず、2009年に発生したフェデックスの成田空港での事故例に見られるように、着陸失敗の事故が発生しています。この事故では間接的な要因として、風向風速の変化や気流の乱れにより、飛行機の速度や姿勢角が安定せずに、降下率が大きな状態で進入したとされています。

現在空港で運用されている風変化に関する情報提供システムは、事故に直結する大規模な風変化や下降気流が地面に衝突して四方に広がるマイクロバーストと呼ばれる現象に関して警報してきました。
しかし、大規模な風変化やマイクロバーストだけではなく、飛行機が着陸する間際の低い高度での局所的な乱気流も、飛行機の姿勢や速度を変化させますので着陸復行の原因となっています。すなわち、現在の情報提供のみでは無駄に航空機を着陸復行させたり、安全を損なう可能性があります。 また、乱気流の情報が提供されたとしても、発生している乱気流に対して実際の飛行機の揺れや操縦の難しさは小型機や大型機などの機体の種類やパイロットの感覚によっても異なるため、警報情報が直接的に運航に役立っていない可能性がありました。

そこでJAXAのDREAMSプロジェクトチームでは、低高度の局所的な乱気流や着陸する際の操縦難易度の情報等を提供するLOTAS(LOw-level Turbulence Advisory System)というシステムを開発しました。
この操縦難易度は信号のように三段階でお伝えします。
操縦難易度 大:風変化や乱気流により、場合によっては復行が予測される。
操縦難易度 中:風変化や乱気流により、特別の注意/操作が必要。ただし、進入着陸は可能。
操縦難易度 小:問題なし。
この操縦難易度や局所的な乱気流の情報により、パイロットの着陸判断のお手伝いをします。

「そんな情報を出されても、操縦の難しさが大なのか中なのか、パイロットの技量によっても違うでしょう。」と皆様は思われるかもしれません。確かにそうです。
この操縦難易度を判定するにあたっては、全日空のご協力のもと、山形県の庄内空港で風の観測データ、実際の飛行機のデータ、アンケートによるパイロットの主観データを多数取得して、難易度を判定する統計的なモデルを構築しました。実際とモデルから導出した判定結果の差を実際の運航で評価したところ、80%の確率で的中することが分かりました。

現在、LOTASの一部の機能は気象庁との共同研究により、JALとANAで実際の運航で使用しながら評価中です。LOTASによって航空機事故を減らし、着陸復行を減らして運航効率を向上させていけたらと考えています。