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宇宙航空研究開発機構

ナイス・バディを手に入れよう!

JAXAメールマガジン第222号(2014年6月5日発行)
徳川直子

美しい曲線のナイス・バディって良いですよね。
「JAXAで女性のスタイルの話?」
いえいえ、違います。航空機の機体形状の話です。
ですから、表題は、「“ナイス・バディ”な航空機の形状を設計しよう!」という意味です。

2013年9月20日発行の「JAXAメールマガジン第206号」と2014年2月5日発行の「JAXAメールマガジン第214号」で航空機の燃費を良くするための研究についてお話をさせていただきましたが、今回はその続きで、前にご紹介した自然層流設計についてです。

航空機が“ナイス・バディ”って、どんな形状でしょう?
これは、航空機の種類や大きさ、巡航速度、特徴となる性能によって異なります。たとえば、音よりも速く飛行する超音速機では、大きなソニックブームが問題になりますから、それを軽減できる形状が“ナイス・バディ”と言えます。一方、グライダーや人力飛行機では、誘導抵抗(翼端で生じる揚力によって副次的に発生する抵抗)を小さくする縦横比(アスペクト比)が大きい翼が“ナイス・バディ”の特徴です。
研究者の視点ではどうなるでしょう。エンジンの研究者であればエンジン・ナセルのフォルムの美しさに目を奪われるでしょうし、機体構造の研究者であれば、より軽量で丈夫にするために橋梁のような翼に魅力を感じることがあるようです。ただし、そのような形状では抵抗がとてつもなく大きくなってしまうそうですが。

では、機体の摩擦抵抗低減を目標としている“境界層屋”から見た“ナイス・バディ”とはどんな形状でしょう?
残念ながら、「これこそが“境界層屋”にとっての“ナイス・バディ”なんです!」と、その形状を即答することはできません。それは“境界層屋”は、いつも形状そのものよりも、そこを流れる空気の流れが重要であり、どんな流れだったら摩擦抵抗が小さくなるかを考えているからです。なので、“ナイス・バディ”な形状そのものは即答できませんが、“ナイス・バディ”な形状が作る流れは答えることができます。
例えば、かなり専門的になってしまいますが、後退角(機軸に対して翼の前縁がなす角)が小さな低速機の翼では、加速領域が長ければ“ナイス・バディ”と言えます。加速することによって、Tollmien - Schlichting不安定と呼ばれる、流れを乱す作用が抑えられるためです。逆に、前にもご紹介した小型超音速実験機NEXST-1のように後退角の大きい高速機では、この加速領域で横流れ不安定と呼ばれる、Tollmien - Schlichting不安定よりも、もっと強力に流れを乱そうとする作用が起きてしまいます。そこで、加速領域の長さや加速勾配を工夫し横流れ不安定をできるだけ抑制することが“ナイス・バディ”の条件です。

では、“境界層屋”の仕事は、“ナイス・バディ”な形状が作る空気の流れを答えることで終わりかというと、そうではありません。やはり、流れについて研究している“境界層屋”でもJAXAで航空機の研究に携わる研究者の端くれ。“ナイス・バディ”な形状そのものも答えたいのです。そこで、私たち機体システム研究グループでは、摩擦抵抗が小さくなる、“ナイス・バディ”な形状を設計しています。
形状を工夫することによって、動的な制御を加えずに“境界層”が摩擦抵抗の小さな層流状態を維持できるようにする設計を、自然層流設計と呼びます。
通常は、最初に形状を決め、摩擦抵抗の評価を行い、その結果から繰り返し形状を修正していく“順問題設計法”と呼ばれる方法が用いられます。しかし、私たちは、まず性能の良い機体周りの“流れ”を予測し、そのような流れになるよう形状を修正していく“逆問題設計法”と呼ばれる方法を主として用いています。“ナイス・バディ”な形状が作る流れの研究が活きる、“境界層屋”ならでは、の設計手法だと思います。
NEXST-1の主翼も、この“逆問題設計法”を用いて、世界初となる自然層流設計が施されました。NEXST-1は、全長が11.5mしかない小型の実験機でしたが、現在は、ビジネスジェット機・クラスの小型旅客機、さらにコンコルド・クラスの大型旅客機を研究対象とし、自然層流翼設計を進めています。一般に機体のスケールが大きくなればなるほど、境界層を層流に保つことが難しくなりますが、それこそが研究の醍醐味。摩擦抵抗の小さな超音速機を設計できるよう、日々研究を進めていきたいと思います。

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