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宇宙航空研究開発機構

回転翼機の発展の歴史-航空機として飛ぶ工夫(4)-

JAXAメールマガジン第227号(2014年8月20日発行)
齊藤茂

こんにちは、ヘリコプターを研究している齊藤茂です。前回に引き続き回転翼機について考えてみます。

前回は、ヘリコプターが自在に飛ぶための3つの発明について説明しました。これらは、ヘリコプターがローターを使って飛行することに起因したものです。これら3つの機構は、固定翼では考えられない複雑な機構です。したがって、ヘリコプターとして安定して飛行するために、先人達が苦労して絞り出したアイデアであるということができます。これゆえにヘリコプターは空中でホバリングという飛行状態が可能となり、災害救助、人命救助等で活躍しているのです。3年前(2011年3月)の東日本大震災発生初期のころ、テレビで毎日のように見られたくらい、ヘリコプターの活躍ぶりは目覚ましいものでした。
さて、このように今では国民の日常生活で欠くことのできないヘリコプターですが、まだまだ人間にとって満足できる航空機であるとは言えません。前回にも触れましたが、航空機は操縦性や安定性が強く求められます。そのうえで、快適性、環境適合性を有していなければなりません。快適性とは、乗客に対してだけ指すものではありません。操縦者しかり、客室乗務員しかり、全て航空機に搭乗している人々に関係するものです。
特に顕著なのが、振動です。機械では振動が発生するのは、ある意味当たり前のことです。特に、回転する部分を有する部位(固定翼では、エンジン、プロぺラ、空調など。他方回転翼では、エンジン、メインおよびテイル・ローターなど)からは、大小の周波数を含んだ振動が発生し、操縦室、客室などに伝わってきます。人間は、絶えず振動にさらされていると、神経を刺激し、腰痛、肩こりなどの張りや体調を崩したり、過度な疲労に陥りやすくなります。現在、旅客機が大陸間を頻繁に行き来する時代になっていますが、長い間の飛行では操縦者への疲労などが重なると誤動作や判断ミスなどのために人為的な事故につながりかねません。他方、操縦席に設置された装置類は、飛行に関係するため振動に対して特に慎重に取り扱わなければならない。このため、航空機の設計上、操縦席での振動の大きさがある決まった量以下になるように定められています。
振動を基準値以下に設定するためには、どのような工夫がなされているのでしょうか。通常、振動源となる部位を振動吸収材で固定する方法、振動物体の中でノード(節)と呼ばれる振動変位がない部位に着目しその部位で胴体等に固定する方法、ダンパーなどで振動部位と胴体の間にかませ振動を緩和するパッシブな工夫、振動を軽減させるためにより先のダンパーを積極的に駆動させ、振動する部位と逆の位相で振動させて振動を抑えるアクティブな方法などがあります。
これら胴体内部での振動発生源に対して、ヘリコプターはローターという振動源が存在します。ローターは、回転することによってブレード上に空気力(揚力、抗力)を発生させ、この力によってヘリコプターを空中に釣り上げると同時に、前後、左右に進むことを可能とします。このように飛行のための平均的な力が発生している一方、ブレード上に発生する空気力は、必ずしも全て同一な力とはなりません。それは、大気中の空気は風などの影響やローター自身が揚力を作るために発生させた翼端渦などの影響で、空間上でブレードが遭遇する空気の速度にばらつきが発生するためです。これらの空気力は非定常空気力と呼ばれます。
通常ブレード上で発生した空気力は、ロータの回転軸を通して胴体に伝達されます。このとき、回転軸に伝わる空気力はブレード上に発生した空気力の和として伝わります。したがって、理論的には、2枚ブレードでは回転周波数の2倍、3枚ブレードでは回転周波数の3倍の振動が回転軸を通じて伝わることになります。これに、先に説明した非定常空気力の合計(これは、必ずしも打ち消し合わない)が重畳されます。これら非定常空気力の振動数はローターの回転周波数に比べてかなり高調波となります。
このような振動を軽減する方法としては、ブレードの回転中心の近くにダンパーを設置して振動を軽減するパッシブな方法や、ブレードとスウォッシュプレート(Swash-plate※注1)との間にアクチュエータをかませ、積極的に駆動させることで操縦席等における振動加速度を軽減させています。これを積極的に駆動させると、最大で95%程度まで振動を軽減させることが可能となります。この方法をアクティブな振動軽減法と呼んでいますが、今のところ実用にまでは至っていません。
最近では、研究段階ですが、ブレードの翼端付近にフラップやタブ、スポイラーなど、また翼自体に内蔵したアクチュエータを駆動するなどの様々な駆動装置を設置し、高調波で駆動させることで振動を軽減させるアクティブな振動軽減装置の開発が進んでいます。これらは、ブレードの上に振動を軽減させるための揚力を積極的に作り出すことで、回転軸に伝わる振動そのものを軽減させるものです。
他方、環境適合性とは、我々国民が生活する上で、航空機の活躍が素直に受け入れられるかという許容の程度を言います(Public Acceptance)。ICAO(国際民間航空機関)では、空港周辺での航空機から発生する騒音の基準を規定しています。次回には、この騒音に関して解説したいと思います。

注1:Swash-plateとは、ヘリコプターのトランスミッションとロータとの間に設置された装置である。飛行するための制御量()をこのSwashplateに作用させるとそれに応じて傾き、この上にブレードのピッチ角を変化させるピッチロッドを連結したプレートを回転させ、各ブレードのピッチ角にこれら制御量を伝達するように工夫された装置。

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