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宇宙航空研究開発機構

再突入機の空力設計~カタチの決め方~

JAXAメールマガジン第229号(2014年9月19日発行)
白水正男

前回223号でこの欄を担当した時は、宇宙機を熱から護るメカニズムについてご説明しました。今回は再突入機のカタチがどのように決まっていくかについてご紹介します。もう20年近く前になりますが、日本で最初の極超音速揚力機の飛行となった“極超音速飛行実験機(HYFLEX)「ハイフレックス」”のカタチがどうやって決まっていったのかです。
工学的な設計は、要求と制約の下で行われます。こういう機能、性能を持つこととか、これこれの大きさを超えてはいけないとかです。でも、必ずしも理詰めだけで設計が進むわけではありません。要求と制約が許す範囲で設計者は少しの自由を楽しむこともできます。

この記事を読んでいただくためには、HYFLEXの形や飛び方をなどを知っておいていただく必要があります。HYFLEXについては、

に紹介があり、「機体構成」を開くと三面図もあります。

再突入機の最大の課題は熱防護です。HYFLEXは再使用型の熱防護材料を使うことが「要求」されていました。このためには、加熱率すなわち単位時間あたりに入ってくる熱エネルギーを決められた値以下にし、材料の温度が耐熱限界を超えないという「制約」を満たす必要があります。加熱率を抑えるには2つのことが重要になります。一つは、なるべく空気が薄い高いところを飛ぶこと。もう一つはカタチ、具体的に言えば表面の曲率半径をなるべく大きくすること。
ある速度でより高い高度を飛行するためには、それだけ大きな揚力を発生させて機体の重量を支えることが必要です。普通の飛行機では主翼の形(平面形や断面形)が揚力の大きさを左右し設計者が苦心するところですが、大迎角の極超音速において揚力を大きくするのは実は単純で、ひたすら平面形の面積を大きくするしかありません。胴体でも翼でも構わないので、とにかく面積を拡げることです。HYFLEXは、J-Iと呼ばれるロケットで打ち上げられましたが、そのフェアリング(衛星などの搭載物のカバー)の中に搭載されなければならないという「制約」がありました。だから、三面図を見ていただければわかりますが、HYFLEXの平面形はJ-Iのフェアリング一杯に納まるような形と大きさになっています。
次に先端のカタチです。マッハ0.8くらいで飛ぶ通常の旅客機の先端は丸いですが、マッハ2のコンコルドの先端は尖っています。マッハ15のHYFLEXの先端はさぞや針のように尖っている、と思いきや、旅客機以上にまん丸です。これは曲率半径を大きくすることにより加熱率を小さくするためです。
これで最大の課題である熱の問題をクリアできる目処が立ちました。

揚力飛行とは、機体の姿勢を変えながら揚力を使って飛行経路などをコントロールして飛ぶことです。そのためには、まず姿勢が安定することが「要求」されます。普通の飛行機では垂直尾翼や水平尾翼が姿勢を安定させます。しかし、40度くらいの大きな迎え角(進行方向に対して先端を上げた角度)で飛行する再突入機では垂直尾翼はほとんど効果がありません。スペースシャトルの垂直尾翼はもっと速度が低くなって普通の飛行機と同じように飛ぶときのためについています。
代わりに大迎角での姿勢の安定に役立つのが、いわゆる上反角効果と呼ばれるもので、普通の飛行機では主翼を水平より少し上向きに取り付けることで発生させますが、HYFLEXで胴体の下面が船底のようにV字型になっているのはその効果で機体の姿勢を安定させるためです。

姿勢のコントロールは後端にある左右一対のエレボンで行いますが、姿勢のコントロールのためには、エレボンを胴体下面に組み込んでも同じような効果が得られますし、打ち上げロケットへの取り付けなどではその方が有利です。エレボンが胴体から後ろに突き出しているのには理由があります。
飛行機は揚力の作用点と重心位置が一致するような迎え角でしか飛べません。HYFLEXのような機体では重心が後ろに寄りがちになるので、揚力の作用点もなるべく後端に近くなるようなカタチにする必要があります。揚力はエレボンにも作用するので、エレボンがなるべく後ろにあるとそれだけ揚力の作用点を後端側に寄せることができます。エレボンが胴体から後ろ側に飛び出すように付いているのはこのためです。

ここまでが「要求」や「制約」によって決まったカタチです。HYFLEXで特徴的なことは、左右一対の安定翼が付いていることです。この安定翼はある程度姿勢の安定に寄与し、また、翼に耐熱タイルを貼り付ける方法を実証するという目的もありましたが、最大の理由はHYFLEXの位置づけと関係していました。HYFLEXはスペースシャトルのような形をした有翼型のHOPE-X開発のための実験機でした。そのため、見た目が有翼機に近い印象になるように付けたものです。そういう意味では、技術的な必然性ではない設計者のいわば“遊び心”が生んだものということもできます。

近く飛行実験が予定されている欧州のIXVという実験機があります。

この実験機の要求や制約はHYFLEXと多くの点で類似しています。上に紹介したカタチのうち、フェアリング一杯の平面形、丸い先端、後端に突き出した一対のエレボンなどはHYFLEXと共通しています。また、V字型の下面の代わりにIXVでは胴体側面がV字型になって同じ効果を生むようになっています。このように、要求や制約が似ていると同じような形になることは工学的にはよくあることです。しかし、“遊び心”の安定翼が付いてないこともよく見ておいてくださいね。

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