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宇宙航空研究開発機構

回転翼機の発展の歴史-航空機として飛ぶ工夫(5)-

JAXAメールマガジン第237号(2015年2月5日発行)
齊藤茂

こんにちは、ヘリコプターを研究している齊藤茂です。前回はヘリコプターを乗り物として常時使用するためには、搭乗するときの快適性、環境適合性を有していなければならないという話をしました。
快適性とは航空機に搭乗している間、パイロットや乗客等の身体疲労や精神的に過度な疲労などをおこさせない環境をいいます。これらを実現するために特に振動対策が重要となりますが、それについては前回のメルマガで説明しました。今回は、環境適合性について考えてみます。

環境適合性とは、航空機が飛行することによって、外界に影響を及ぼすことをいい、これが人類にとって受け入れやすいかどうかの程度のことをいいます。通常航空機はエンジンを使って飛行します。エンジンはケロシンという石油から精製した燃料を燃焼させ、高速で後方に噴出させ、その反力で推進力を得るものです。燃焼室で燃焼したガスは、噴出される前にタービンを回転させます。この回転したタービンは前方にある圧縮機を回転させ、よりスムーズに取り入れた空気を圧縮し、燃焼室へと空気を導きます。タービンを回転させた燃焼ガスは、後方に向かって噴流として高速で放出されます。この運動量の変化が航空機を前方に押し出す原理です。航空機では、エンジンを燃焼させることが必須のため、燃料の中に含まれる色々な成分が燃焼と共に後方に放出されます。たとえばCO2、NOxなどがそれで、これらは地球上の大気と影響し合って、オゾン層の破壊や温暖化の原因となっているといわれています。
現在これらの排出物に関する規制をどうするかという検討が、ICAO(国際民間航空機関)のCAEP(航空環境保護委員会)で議論されています。同様にCAEPでは、航空機が発する騒音の規制に関しても議論されています。ヘリコプターに関していえば、2002年に新規制が制定され実行されています。この新騒音規制は、2002年以降に製造される機体に適応されるもので、古い機体は順次新機種と交代させられる運命にあります。ICAOの騒音規制は、離陸、水平飛行、着陸3形態に関してそれぞれ機体重量に関して定められています。新規制ではそれぞれ3EPNdB、4EPNdB、1EPNdB(※)低減する必要があり、これら3飛行形態の中では、着陸形態での騒音規制が最も少ない騒音低減量となっています。(※EPNdB:航空機特有の騒音や騒音の継続時間などを盛り込んだ航空機騒音測定のための指標)

ヘリコプターから発生する騒音は、様々な騒音が交じっており、エンジン、トランスミッション、回転翼(メインおよびテイルローター)、胴体とローターの空力干渉などから発生する騒音に分けられます。音は、理論上3つに分類されます。まず、物体そのものが流体中を進んで行くときに発生する翼圧音、さらにブレード(翼)の上に発生する揚力の時間的・空間的変化によって発生する荷重音(空力騒音)、さらに物体表面や後縁から発生した渦が互いに擦れ合うことによって発生する渦騒音です。
これらの騒音の中で特に顕著なものは、ローターから発生する空力騒音です。その一つに、近年の高速化に伴うブレード上の衝撃波の発生による騒音(高速衝撃騒音(High Speed Impulse Noise))があります。
ローターは回転をすると同時に前進しているので、ローターの前進側(米国式では上から似て右側、フランス式では上から見て左側)ではブレードが経験する合成速度(前進速度+回転速度)は、翼端に近いほど大きくなり音速に近づき、この結果、ブレードの翼端付近で衝撃波が発生します。音速に近い流れが、物体にぶつかりその物体の上を流れてゆくと、さらに加速されついには音速を超えるまでの速度となります。この流れは、ついに同じ状態を保つことができず、ある境を超えると一気に亜音速まで減速します。このある境が衝撃波といわれるもので、その厚さは非常に薄いものです。この衝撃波から生じる擾乱が、ローターから外側に拡散していくことで音として聞こえるのです。この現象は1回転に1度の割合で衝撃的におこるため、聞いている人にはローター1回転の間にブレードの枚数分聞こえることなります。
回転している座標系でみると、ローター中心からある一定の距離の所から超音速領域が存在します(これは実際には存在せず、理論上の考えられる領域)。ブレード上に発生した衝撃波の擾乱(速度は音速以上)は、この座標系で見たとき、外側の超音速領域と一瞬ですが合体する現象が起きます。この現象が起きると、衝撃的な音として伝播していくのです。
この現象は、ヘリコプターの分野では、“比局所化”と呼ばれ非常に重要な現象です。この高速衝撃騒音の強さは、衝撃波の強さ、ブレード上に発生した衝撃波の位置(翼端の方はより強い)、衝撃波付近の超音速領域の広さで規定されます。高速衝撃騒音を減らす手段としては、これら強さを規定する要素を減らせばよく、その一つの方法は、英国のウエストランドがリンクスというヘリコプターを使って飛行試験をしたBERPという翼端形状が、衝撃波の発生を遅らせるという点で騒音低減に効果的です。
ヘリコプターから発生する衝撃的な音に、ブレード・渦干渉騒音があります。この音も、ヘリコプターの分野では非常に重要な音の一種ですが、この説明は次回にしたいと思います。

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