隙や弱みがある方が信頼できる!?

JAXAメールマガジン第250号(2015年8月20日発行)
小谷政規

こんにちは。構造・複合材技術研究ユニットで航空機に使われる材料の研究をしている小谷政規と申します。
今回はじめての投稿ですので、まずは私が長年取り組んでいるセラミック複合材(Ceramic Matrix Composite; CMC)のお話をします。CMCがエンジンの高温部材として期待できる材料であることは既に第207号で鈴木和雄さんが紹介されているので、今回はその微細組織について少し説明したいと思います。

セラミックは、金属よりも高温に耐えるため、航空機や宇宙機のエンジン部材として以前から注目されてきました。当初は均質なセラミックに注目が集まり、緻密化を進めて材料組織中の欠陥を極力減らすことによって特性向上が図られました。しかし、それでも加工や運用中に損傷を受けるとそれを起点として一気に致命的な破壊につながってしまうことから、信頼性の面で実用化は難しいとの結論に至りました。
そこで、セラミックの熱に強い特性は活かしつつ、致命的破壊が一気に起こらないように材料組織を設計されたものがCMCです。CMCは、セラミックの強化繊維をセラミックの母相(マトリックス)で固めたもので、全てセラミックで構成されています。これでまず耐熱性が確保されます。これに加えて、破壊を一気に進めないために、生じた亀裂がそのまま材料を貫通しないようにする必要があります。
ここでポイントとなるのが強化繊維とマトリックスとの間の界面です。この界面を強化繊維やマトリックス自身に比べて相当弱くしておくことによって、組織中を進んできた亀裂の進行方向を変えたり枝分かれさせたりして進行を止め、その結果材料の破壊が中断されます。界面に剥がれ易い層状の分子構造を持つ黒鉛などの薄い層を形成させておくことによって弱くすることができます。黒鉛である鉛筆の芯を紙の上で擦り付けると少しずつ剥がれ落ちて文字が書けるアレです。
また、界面の他に、材料中に存在する空隙も亀裂の進行を止める役目を果たします。元々CMCでは、どのような製造方法を用いてもどうしても数パーセント以上の空隙が残ってしまい、これを低減する努力も多くなされてきました。現在では、界面の特性と共にこれを最適に制御して材料の信頼性向上に役立てようとする考えも多くなっているように思います。こうしてCMCでは、空隙や弱い部分を積極的につくることによって、その結果剛性(変形し難さ)など一部の特性を少々犠牲にしつつも、構造材料としての信頼性が向上されています。

カタブツの優等生よりも、多様な面を持って柔軟に振る舞い時には隙や弱みを見せる人の方が安心して信頼できるって感じでしょうか……
多数の人命を乗せる旅客機では、そこに使われる部材や部品にはとても高い信頼性が求められます。ここにCMCが実用化されて燃費向上に貢献する日が来てほしいものです。