エンジンでも湿気は大敵!ちょっとだけの方がコワい…

こんにちは。構造・複合材技術研究ユニットの小谷政規です。いよいよ寒くなってきました。寒くなると空気が乾燥して唇はパリパリ、手などお肌はカサカサになってイヤですね。第246号で上野真さんが湿気はキラいと言っていましたが、我々生き物にとって湿気は少なすぎるでもなく多すぎるでもないのが良いですね。でも、機械にとっては、湿気は嫌われ者であることがほとんどです。

航空機エンジンの材料もその一つです。前回の第250号では、将来航空機エンジンの高温部に今後使われる材料として期待されているセラミック複合材(CMC:Ceramic Matrix Composite)の微細組織についてお話しました。今回は、このCMCにとって、高温の水蒸気が大敵であることについてお話しします。

航空機エンジン(ジェットエンジン)は、エンジン前方から後方にかけて、吸い込んだ空気を圧縮し、そこに燃料を混ぜて燃焼させて、ものすごいエネルギーの燃焼ガスをつくり、この噴流で、タービンを風車のように回して圧縮機やファンを駆動すると同時に、直接推進力を得る機械です。燃料を燃やす燃焼器やタービン部分は1,400℃以上もの高温になるため、ここに軽量で耐熱性に優れたCMCを使いたいのです。一方、ジェットエンジンでも自動車エンジンと同じ炭化水素系の燃料を使用するため、自動車の排気ガスと同じように、燃焼ガスの主成分は水と二酸化炭素になります。よって、タービンなどの部分には、ものすごく高温の水蒸気が吹き付けられるわけです。

今現在、最も注目されているCMCは、炭化ケイ素(SiC)をベースとしたものです。炭化ケイ素は、ケイ素(Si)と炭素(C)の原子が同じ数ずつ三次元につながって強い構造を作っているために、ものすごく硬く熱に強いセラミックです。さらにこれを、前回お話したとおり、微細組織を上手く制御することによって割れにくくしています。

こんな素晴らしい材料ですが、高温での酸化には注意が必要です。酸化というのは、あるものが大気中の酸素と反応して別のものに変わる現象です。温度が上がるほど、また湿気がある方が、起こりやすくなります。炭化ケイ素の酸化には2種類あります。パッシブ酸化とアクティブ酸化です。パッシブでは、“受け身的”ということで、周りから酸素原子がくっついてくるイメージ。また、アクティブでは、“積極的”ということで、炭化ケイ素を構成する原子が自ら周りの酸素原子と手をつないで飛んでいくイメージです。

どちらが問題となると思いますか? 答えはアクティブです。パッシブは、酸化物が材料表面を覆ってしまった後はほとんど進まなくなりますが、アクティブでは、炭化ケイ素を構成する原子がどんどん飛んでいき、材料はどんどん消耗されていきます。パッシブは、比較的低い温度で酸素原子が多くいる時に起こり、アクティブは逆に高い温度で酸素原子が少ない時に起こりやすくなります。温度が高く酸素が少ないというのはジェットエンジンの燃焼ガスに含まれる水蒸気と同じ環境ですね。ちょっとだけいる時がコワいんです!

燃焼ガスの水蒸気によるCMCのアクティブ酸化を防ぐために、タービン部品の表面に耐環境性コーティング(EBC:Environmental Barrier Coating)と呼ばれる高温水蒸気酸化に強い物質で出来たコーティングを施して、内部のCMCを守ります。これがタービン部品の寿命や信頼性を大きく左右するため、エンジン運転中に割れたり剥がれたりしないための技術がとても重要です。

以上お話したように、タービン材料はとても高い温度と湿気に耐えなければなりません。皆さん、負けないように応援してあげてくださいね!
あっそういえば、この前途中まで食べてゴムで留めておいたポテチ、まだ湿気ってないかなぁ~