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宇宙航空研究開発機構

なぜ再使用型宇宙輸送システムか?- その2 -

アウトプットとアウトカムという言葉があります。アウトプットは何かの活動の結果として直接的に生み出されるもの(“物”とは限りませんが)で分かりやすいですが、アウトカムはちょっと分かりにくいところがあります。コトバンクでは、「成果という意味の英語で、研究がもたらす本質的な成果のことを指す。論文や特許の数といった外形的なものではなく、実際に社会にどんな影響を与えたかを評価すべきだという考えから、注目されるようになった。」(知恵蔵2015)が紹介されていて、ここでは研究のアウトカムという形で説明されていますが、別に研究に限った用語ではありません。私がこれまでに見聞きしたアウトカムの説明として最も分かりやすかったのは、「ある予算で外灯を100基新設するのがアウトプット、それで犯罪の発生が減るのがアウトカム」というものです。
前置きはこれくらいにして、本題に入ります。前回(メルマガNo.255)は再使用型宇宙輸送システム(以下では再使用システムと書きます)のアウトプットとして、“安い”“快適”“安全”があるということを書きました。(この順序で重要だという意味ではありません。誤解なきよう。)今回は再使用システムのアウトカムについて書いてみます。“安くて”“快適で”“安全に”宇宙に行けるようになったら、社会にどういう影響があるだろうか、という話です。

現在、宇宙活動がもっと活発になることに対するハードルの一つに、宇宙に行く(あるいは宇宙に物を運ぶ)ためのコストが大きいことがあることは誰もが認めることです。すでに行われている宇宙活動(通信、地球観測、宇宙探査、宇宙環境利用など)が今より盛んになることは、確実性が高い再使用システムのアウトカムだと思われます。でも、既存の活動が活発化するだけではアウトカムとしてはあまり魅力的ではありません。
これまでなかった新しい活動としてどのようなことが始まるでしょうか? これは、二つのものがよく議論されています。一つは、宇宙太陽光発電です。宇宙には曇りの日も夜もないため、非常に効率よく太陽光発電ができます。でも、地上の電力需要に十分寄与できるくらいの量の発電を行いエネルギー問題を解決しようとすると、これまで人類が宇宙(地球周回軌道)に運んだものの何十倍、何百倍の物資を運ぶ必要が出てきます。いくら発電効率がよくても、今のように1トンあたり5~10億円の費用がかかっていては地上の発電にコストでかないません。宇宙太陽光発電を実際の社会システムとして実現するには、打ち上げコストを劇的に下げることができる再使用システムが不可欠です。
もう一つは、一般の人が宇宙に行く宇宙観光です。宇宙観光は、30億円ともいわれる費用を払ったケースとしてはすでに実現していますが、一般の人が海外旅行などと同じような感覚で宇宙に行けるようにはなっていません。近い将来の実現を目指しているヴァージン・ギャラクティック社のスペースシップ2も、わずか3分間程度の宇宙体験にすぎません。再使用システムでは、ちょっと贅沢な海外旅行程度の費用で地球を回る軌道に入り、何時間にもわたる宇宙体験が可能になると考えられます。航空機で南極大陸を空から眺めるツアーがありますが、宇宙から地球のいろんなところを眺めるツアーも人気を集めるのではないかと思います。少し贅沢をすれば、宇宙ホテルでの滞在も可能になると思います。宇宙で発電したものでも電気は電気にすぎないのに対し、無重量や地球の眺めを楽しむという全く新しい経験ができるという意味で、宇宙観光はアウトカムとして大きなインパクトを与えると思われます。 また、宇宙活動ではありませんが、再使用システムは地球上の2地点間の移動のための高速輸送手段として利用可能です。 もっと大きなアウトカムがあるのではないかという期待もあります。でも、それが何であるかと予想することは残念ながら私の能力を超えています。山手線ができた頃、池袋駅の前には畑が広がっていて、こんなところに駅を作って誰が乗るのだ、などと言われたという話があります。ライト兄弟がライトフライヤーを飛ばした時に、将来500人以上の人を乗せて大陸間を結ぶ乗り物のことを頭に描いていたとは思えません。パソコン/インターネット/携帯電話も、それを作った人たちは、今のような使われ方を具体的に想像してはいなかったはずです。宇宙に手軽に行けるようになると、今の私たちが想像してない世界が出現するだろうと思います。地球周回軌道まで低コストで行けたり物を運んだりできるようになると、月やその先の宇宙も近いものとなり、そこからも新たなアウトカムが出てくるかもしれません。

冒頭に書いた外灯の例では、外灯を増やして通りを明るくすると犯罪が減るであろうというアウトカムを期待して外灯を設置するわけです。でも、犯罪は暗いことだけが原因で起こるわけではありません。夜中もこうこうと照明が点いているコンビニでも、強盗事件は起こってしまいます。このように、アウトカムには直接コントロールすることができないじれったさがあります。一方、想像もしていなかったことが起こるのではないかということもアウトカムのおもしろさです。何かが変わって新しい世界ができてくることを期待して、願って、信じて、研究開発は進みます。(白水正男)

 

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